盲音の第二譜歌
□タルタロスの歌 〜舟歌より〜
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紳士的な大佐は、美月が転ばないように誘導してくれていた。
おそらくそう遠くない船室。椅子に座らされて、ジェイドも向かい合うように座った。
「イオン様にお聞きしました。あなたがアニスとイオン様を助け、私を頼るように言ったと」
「無事に送ることができて何よりだ」
「まったくです。無茶をしますね。……あの力は超振動ですね?」
「やはりそうか?」
「『やはり』……自分で気づいてなかったんですか?」
「いや、疑ってはいたが、髭にルークのことを聞いていて、ありえないと思っていた」
単独で超振動を起こせるのは、このオールドラントでは二人だけ。
「ヴァン謡将はあなたの力をご存じですか?」
「知らないと思う。この力に気付いたのは結構幼い頃だったし、何故だか人前で使ってはならないと思い込んでいた。後で、この力がいろんな勢力に狙われるものだと知り、さらに使わなくなった」
「ええ、これからもそうしてください。あなたのことです、心配ないと思いますが、くれぐれも気をつけるように」
「わかった。……皇帝陛下はお元気か?」
「ええ、元気ですよ。あなたがなかなか会いに来ないことをイオン様に愚痴っておいででした」
いつでも嫁にこい、というピオニーの誘いを美月は断り続けていた。
「私とやりあってピオニーが勝ったら嫁に行ってやると、伝えてくれ」
「はぁ、陛下も哀れですね。よりによってヴァン謡将と互角とうたわれる女性を倒さなければならないんなんて」
「まったくだ。……彼には、もう心に決めた方がいるだろうに」
ジェイドは目を丸くした。
「……知ってるんですか?」
「この職業柄、ネフリー知事にお会いした。日雇いの護衛だった。ジェイドとサフィールとピオニーの愉快な話も聞いたな」
はぁ、とため息をつく大佐。どうやら彼女には事情がお見通しのようだ。
「このことは……」
「口外しない。安心しろ。誰かさんのように、人の弱みを握って楽しむ趣味はない」
「傷つきますねぇ……でも、助かります」
すると兵士が大佐への取り次ぎを伝えにきた。ルークの決心がついたようだ。