盲音の第三譜歌
□ゴーシュ 〜不器用に〜
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オアシスの水辺に、赤毛鶏がいた。
「やぁ、アッ君、久しぶり」
振り返ったアッシュはミツキに気づいた。
「……お前まだこいつらといたのか」
「いや、だって、ナっちゃんの護衛だもん」
「そうか」
納得した。やっぱりナタリアがらみだと素直だ。
「話ってなんだよ」
ルークが少し機嫌の悪い声でたずねる。
「何か変わったことは起きてないか? 意識がまじりあってかき乱されるというか……」
ピクッとミツキが動いたのでミュウは頭から落ちそうになった。
「はぁ? 意味わかんねぇ。おまえが俺との回線をつないでこなければ変なことは起きねぇし……」
「どっちも元から変だもんな」
「「どういう意味だ!」」と、すかさず二人ともつっこんできた。ミツキは落ちそうになったミュウを腕に抱え直して「別にぃ」とそっぽむく。
「……なんかムカつく」
「今だけお前と同意見だ」
「アッシュ、何かありましたの? どこか具合が悪いとか……?」
ナタリアの問いにアッシュはそっけなく「別に」と答える。
「おい、それだけかよ!」
「……エンゲーブが崩落を始めた。戦場の崩落も近いだろう」
ミツキ以外が全員驚いた。
「そんな!」
「このままでは戦場にいる全員が死んでしまいますわ!」
「馬鹿野郎! ここにいたらお前も崩落に巻き込まれて死ぬぞ!」
素直にナタリアが心配だと言えばいいのに。
「そんなことわかっています。ですからわたくしたちは、セフィロトの吹き上げを利用して、ケセドニアを安全に降下させるつもりですの」
「……そんなことができるのか?」
ジェイドを見るアッシュ。ジェイドは「さぁ?」とふざける。
「食えない野郎だ。もし今の話が本当なら、同じ方法で戦場も降下させられるんじゃないか?」
「でも、シュレーの丘に行くのが間に合うかどうか……」
「間に合う。そもそもセフィロトは星の内部で繋がっているからな。当然、パッセージリング同士も繋がっている。リングは普段、休眠しているが起動させれば、遠くのリングから別のリングを操作できる」
「ザオ遺跡のパッセージリングを起動させれば、すでに起動しているシュレーの丘のリングを動かせる……?」
「ヴァンはそう言っていた」
それだけ言ってアッシュは去って行こうとした。それをナタリアが止める。
「アッシュ! どこへ行くのですか」
「俺はヴァンの動向を探る。奴が次にどこを落とすのか知っておく必要があるだろう。……ま、おまえたちがこの大陸をうまく下ろせなければ、俺もここでくたばるんだがな」
ナタリアはアッシュに懸命に話す。
「約束しますわ、ちゃんと降ろすって! 誓いますわ」
「指きりでもするのか? 俺は……」
「指きりぐらいしてやれ赤毛鶏」
「おまえは黙ってろミツキ」
その瞬間、アッシュは後悔した。
ミツキが詠唱準備に入ったのだ。
「ゴホン。……天光満つるところ我はあり。黄泉の門開くところ汝あ……」
「約束だ」
と、すぐにナタリアと指きりする。後ろで見ていたルークたちは「怖ぇえ……」と慄いていた。
「うんうん。男が細かいことやいやい言うもんじゃないぞ」
と、アッシュとナタリアの頭をナデナデするミツキ。
「てめーこそ女のくせに譜術で人を脅すんじゃねぇ!」
「ん? いつ誰がどこでどんな譜術を使ったのかな? 思い出せん、私も歳だな。もう一発譜術を使えば思い出すかも……」
その瞬間アッシュは身をひるがえして去って行った。
「……ミツキ、ありがとう」
ナタリアがほほ笑む。ちょっとは元気になったかな?
恋する乙女には一番の薬だな。
「礼には及ばん。さ、ザオ遺跡へ行こうぞ」