捧げ物

□視線の誘惑
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「…なぁアルト…」

「んー。何だ、ミシェル」

「いいかげん襲うよ?」

「はっ?!!何でそうなるんだよ!!」

「あのなぁ…そんなにずーっと熱い視線送られたら、こっちだって限界なの」

「あ、熱い視線なんて送ってねぇよ!!」

「まだ言うかこのお姫様は…」


もはや何回目かわからない否定の言葉を聞き、俺はため息をついた。目の前で否定した側からまた俺の顔をじっと見つめているアルトを、本気で襲ってやろうかとも考えたが…朝から続くこの行動の理由は、ちゃんと聞いておきたかった。













朝7時。俺がベッドから下りて着替えていたら、アルトがこちらを見ていたのでおはようと声をかけた。珍しく俺の目をじっと見てからおはようと返したアルトは、すぐに部屋を出て行ってしまった。それから学校に着きナナセ達と話してるときも俺の顔を凝視。昼飯のときなんか俺の顔ばかり見ていたせいで、何度も何度も弁当のおかずをこぼしていた。最初はからかってみたりもしが、否定してはまたすぐに見るという矛盾行為に…正直、この俺でもどうすればいいかわからなくなった。しかも上目使いだったり頬杖つきながらだったりすると…本気で歯止めが効かなくなるから!







そんなこんなで今に至る。下のベッドに腰掛け、本(珍しく小説)を読む俺の隣で、アルトは折りかけの紙飛行機を持ちながら、じっとこちらを見つめているのだった。俺がアルトの方を向き見つめ合う。普段なら視線を反らすのだが、今のアルトは逆に顔を近づけてきた。

「アルト…誘ってるの?」

「んー…」

「…え、どっち」

「ミシェル……お前さ…」

「な、何?」

「睫毛長いよな」

「……は?」

一体何を言い出すのかと思えば…睫毛?確かにずっと顔とか目の辺りを見られていたけど…。

「…それじゃ何、姫は今日一日ずっと俺の睫毛見てたの?」

「別に睫毛だけを見てたとかじゃなくて、顔全体見たり…目、を見たり、とか……あと…」

「あと?」

今までずっと真顔だったアルトに、やっと恥じらいが見えた。頬が朱く染まり視線は下の方であちらこちらに泳いでいる。少しの間そうした後、グッと手で拳を作り勢いよく顔を上げた。

「ミシェル!!…目、閉じろ」

「目?」

「いいから早く!!」

「はいはい」


真っ赤な顔してそんなこと言われると、期待しちゃうんだけどなぁなんて思いながら与えられるであろう感触を待っていた。アルトの息が近くなる。もう少し…気合いを入れ直したその時。


ビシッ


「いった!」


おでこに痛みが走った。予想していた感触と大分違うその痛み(どうやらデコピン)に俺は目を開きアルトを見る。


「その小綺麗なおでこに赤い跡付けたいなって見てたんだよ。バーカ!!」

そう言って立ち上がると、くるりとこちらに背を向けキスされるとでも思ったかこの変態などと呟いている。俺はといえば意外と痛かったおでこを摩りながら、期待していただけに落ち込んでいた。だって朝からずっと見てたからさ、もしかしたらって…思うじゃん。


「ミシェル」

「んー?何、ひ…」


めと言い終わる前に、俺の唇は柔らかくて暖かいものにふさがれていた。目の前にはアルトの綺麗な顔があり、目はきつく閉じられている。少ししてからその柔らかい感触は離れた。俯いてベッドの上にいるのは、先程まで立っていたはずのアルトで…今のはもしかしなくても



アルトからの…キス。



驚いて、ついまじまじとアルトを見てしまう。

「…アルト?」

「あと……ミシェルの唇は、形がいいなって、見てた、んだ」


耳まで真っ赤にしながら、必死に言葉を紡ぐアルトを、俺はぎゅっと抱きしめた。一日中ずっと俺の顔を、目を、唇を見て、この可愛いお姫様は何を考えていたのだろうか。その唇に触れたいと、思っていたのだろうか。いつも俺がアルトを見て、その全てに口づけたいと思っていたように…アルトも、自分から触れたいと、思ってくれていたのだろうか。

だとすると……すっごく、嬉しい。


「知ってる?アルト。姫の唇の方が…ちょっと尖んがってて可愛いんだよ」

「…知らない」

「じゃあ俺が教えてあげる…顔上げて、アルト…」

「ん……ぅ…」


その可愛い唇を啄み口内へと舌を進めれば、アルトもまた恐る恐る擦り寄ってくる。そのままベッドへ押し倒すと、アルトの細い指が俺の頬を、唇を、優しく撫でる。

「…やっぱ、お前の方が綺麗だ…」

「アルトの方が綺麗だよ…だから、もっと綺麗なアルトを……俺に見せて」

「…ミシェル…んう……ん…」




















全ては

甘い甘い――視線の誘惑。



END...

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