小説置場
□それはきっと恋だと思うけど
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「アスラン、彼女はフレイって言ってね僕の知り合いなんだ。」
長年の親友キラから会わせたい人がいるからと授業が終わってから無理やり連れてこられた校内にある喫茶店。そこには真っ赤な髪がとても印象的な少女がいた。
「はじめまして」
にこりと微笑む華やかなそれは薔薇そのもので。
四角いテーブルを挟んで右側にはフレイとキラが、左側にはアスランが1人で座った。
キラとアスランは同じカレッジに通っている同級生だ。フレイは一つ下の学年で今月の中旬から彼らのカレッジに編入してくるとの事だった。
彼らが通うカレッジには工業専門の学科と音楽科に別れており、アスランとキラは前者、フレイは後者だ。
キラには以前から好きな人がいてその思い人がフレイであると言う事はとっくに知っていた。もちろん彼らがどういう経緯で知り合ったかまではさすがに知らないが、キラが毎日毎日フレイがどうした、メールの返信が来ないなどと騒ぐものだから、アスランにとってフレイは顔こそ知らないものの、身近な感じのする存在だった。
だからはじめて会ってもそんな気はしない。
「アスラン・ザラです」
「ふふ。知ってるわ。だっていつも聞かされてるもの。すごく頭の良いハンサムな幼なじみがいるって」
口元に手を添えて優雅に笑う仕草から彼女が育ちの良さそうな女性だと言うことが分かる。まったく、こんな人とどこで知り合ったんだか、と不思議に思ってキラを見ればフレイの隣で顔を赤くしていた。
そんなに彼女と一緒にいられて嬉しいのか。
さっきからキラの行動を良く見ていると彼は一分に五回は隣の席に座っているフレイを見ては恥ずかしそうに俯いたり、笑ったりしている。
時折目が合ったりするとそれはもう恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてすぐに目を逸らしていた。
そんなキラの行動でフレイとキラの関係はまだ友達以上になりきれていない事が分かる。
アスランはもしかしたらキラはフレイと付き合っているのか、と思っていたりしていたのだが、この様子だとキラの想いが一方通行だと確信した。
そんな事を思っていると当のキラから話し掛けられる。
「彼女はね、ヴァイオリン学科に入るんだけど、その前に校内を見たいっていうから連れてきたんだ。今から一緒に行くんだけどアスランも来てくれるよね」
つまり一人じゃ恥ずかしいから付いて来いとそういう訳か。
なんて情けない奴。せっかく二人きりになれるんだからそのチャンスを有効活用すれば良いのに。しかしそれは臆病な彼の性格上無理なのだろう。
「別に良いけど」
そう言って幼なじみとしての優しさで了承した。
「お忙しいんじゃありません?無理しないで下さいね。私はキラだけでも良いんですけど・・」
彼女のその言葉でアスランは遠回しに来るな、と言われているような気がして少しムッとした。
「いや別にそんなに忙しくはないけど君がいいって言うなら俺は遠慮するが」
ぶっきらぼうに言い放つ。すると彼女が申し訳なさそうな顔をして言う。
「あっいえ。前にキラがあなたは教授の助手をしているから授業以外でも忙しいって聞いてたから」
「まあ、そうなんだけど」
どうやらキラは自分のそういう情報まで彼女に教えているらしい。
確かに自分が選考している学科の教授から助手と名してこき使われている所為で他の学生より多忙になっているのは事実だ。
だからフレイの言うとおり、ありがたくキラの申し出を断ろうと思って彼を見れば縋るような、睨むような目でこっちを見ていた。
テレパシーのようなものを感じ取る。
[アスラン、断ったら許さないよ]
と言っているような気がした。思えばキラ昔はからこうだった。自分に何かあれば必ずアスランを頼って解決してもらう。もう今年で彼は16歳になると言うのに長年の甘え癖はなおらないようだ。
「でも今日はあいてるから大丈夫」
キラが安心したように笑う。
「じゃあ、行こうか」
そう言って三人で席を立つとフレイがヴァイオリンのケースを持っているのに気付く。
「それ、重くないか?いつも持ち歩いてるの」
と聞けば
「私の分身みたいなものだからいつも一緒よ。重さはあまり感じないわね。でもデートの時は持っていったりしないわ。」
彼女は笑うとき必ず口元に手を添える。
それに立っているのを見て思ったが彼女はキラと身長差があまりないようだ。キラも背が高いほうではないが少なくとも170センチはあるはずなのにその彼と5センチ程度しか違わないようだ。ヒールをはいているので実際の身長は160センチちょいくらいかと想像する。
足も長くて細い。
足首から腰を見てその後腰から肩まで見る。
自分達の一つ下なのだから15歳のはず、なのになんてスタイルだ。これでは大人の女性となんら変わりない。
まじまじとフレイの体を見ていることに気付いたキラの物凄い形相にアスランは慌てて彼女から視線を逸らす。
いくら生真面目なアスランだって今をときめく思春期真っ盛りの男の子なのだ。良い女が目の前にいればその体を舐めまわすように見てしまうのは当然の事。
いやらしい、と罵倒されようとも対象の女性に気付かれなければ対して問題はないはずだ。
だから知らん顔をしていった。
「ここは俺が払うよ」
ここで良い所を見せておけば自分がムッツリすけべであると言う事を隠し紳士として振る舞える。
三人して紅茶を頼んだだけだったので対した金額にはならなかったが、一応マナーとして男性である自分が払うべきだとアスランは財布を出した。
「すみません、いいのかしら・・・」
フレイがそう言って戸惑っているとアスランは微笑み
「遠慮しないで」
と言う。
キラはアスランの態度に少しイラつきながらも自分が今月金欠であると言う事を十分に理解していたので仕方なく彼に頼る。
「アスラン、ごちそうさま。」
知れっとして言う。キラは繊細な容姿から想像がつかないほど図々しい一面がある。
それから三人は店を後にしてヴァイオリン学科がある校舎に向かった。
アスラン達が通う工業科と音楽科は同じカレッジの同じ敷地内にあるのだが、建物のつくり自体はまるで違う。
工業科が無機質なコンクリートのビルならば、音楽科は西洋の屋敷を思い立たせる幻想的なつくりになっている。
「パンフレットで見た通り、綺麗な建物ね」
屋根は赤を基調とし、壁はクリーム色。まるで童話の中のお城のようだ。
しかし中は外観と異なり、防音設備もしっかりと整えられており、一面真っ白な壁が広がる。
建物の一番奥にはホールがあり、そこはまさにオペラハウスのよう。客席も2千人ほど収容できそうだ。
ホールはカレッジの生徒であっても、普段は立入禁止だが、フレイが名前を言ったらなぜかすんなり通してもらえた。
しかしその時アスランとキラは彼女は管理人か関係者と知り合いなのか、とその程度にしか思っていなかった。現に今もホールの管理人と立ち話をして音響やカレッジのオーケストラの事を話題にしていた。
ほったらからしにされていたキラは少しムスっとしている。
するとそんな彼に気付いたフレイがケースからヴァイオリンを取り出す。
「今日のお礼に一曲披露するわね」
とても優しげな音色がホール中に響き渡る。
どこかで聞いた事があるような、そんな曲。
管理人のおばさんもうっとりと聞き惚れている。
このルックスでヴァイオリンが弾けるんじゃあ、キラが夢中になるのもよく分かる。とアスランは心の中で思った。
演奏が終わると聴いていた三人は拍手をおくる。
「とってもよかったよ」
と、キラ。キラは音楽に詳しいはずなんかないのに自分が知るかぎりの専門用語でここのアクセントが良かっただの、うんちくをたれている。
アスランはフレイが演奏した曲名を知っていたので「ラヴェンダーの咲く庭で、だね」
と言うとフレイは嬉しそうに「そうよ。よく分かったわね。結構マニアックなのに」
「いや、父がその曲がテーマソングになった映画が好きで昔よく聴いてたんだ」
「そうだったの。私もね、この曲と映画が大好きでヴァイオリンを始めたのよ、と言ってもやっぱり私も父の影響だったりするんだけどね」
共通の話題で話がはずむ二人をよそにキラの機嫌はどんどん悪くなる。
「アスラン」
あからさまに低い声。
それで二人はやっとキラと管理人の存在を思い出したようだ。
「すまなかったな」
「ごめんなさいねキラ」
アスランが謝っても知らん顔なのにフレイに声を掛けられるとにっこりと頬笑む。分かり安すぎだろうと、つっこみたくなった。
「それじゃあ、ありがとうございました」
管理人に挨拶をして建物を出る。
そして一番聞きたかった事をキラが聞く。
「ね、フレイ。あの人君の知り合いなの?」
「うん、と言うかパパのね知り合いなの」
「へえー。そうなんだ。じゃあ、ここに入るのもそれでなの?」
普通そんな事まで聞かないだうろがキラの場合は違った。思った事はなんでも口に出す。いわゆるデリカシーがないのだ、彼には。
アスランは黙って二人の会話を聞く。
「そうよ。でもちゃんと試験は受けたけどね」
そう言いながらフレイはいたずらぽっく笑った。
可愛いな、と男二人は顔を赤らめるのであった。
完