「に、仁王…?」

焦った彼の声。そんな声も好きだと思ってしまう俺は、末期か?

「ん〜なんじゃ?」

普段冷静沈着(とは言い難いか?)な彼がこんなに焦った声を出すのには、それなりに理由があったりする

「い、いい加減やめんかっ!」

ほら、遂に一喝されてしまった。が、その声にいつもほどの勢いはなかったりするので、俺は全く気にしてない。むしろ煽られた(気がする)。勿論、本人にそんなつもりはないだろうけど

「仁王〜?」

えらく涼しげというか冷気のような…、色に例えればまあ、真っ黒だろうか?そんな物騒なオーラを纏った……神の子と呼ばれる幸村は声をかけてきた

「部活中に死人は出したくないんだけどなぁ〜?」

お〜怖い怖い。あ、赤也が震えてる。というか近くにいる部員は例外なくそうなっていたが…あいにく、俺には効かない。こんな時は姉貴に感謝せざるおえない。昔姉貴に半ば強制的に染められたこの髪を、勝手に黒に戻した時の姉貴は……いや、思い出したくもない

とにかく言いたいのは、幸村のアレより勝るものを知っていて、なおかつ耐性が若干ながらついている俺には効かないのだ


「そうじゃな。」

因みに、俺の腕の中にいる彼はさっきから時々びくっと震えている。かわいいことこの上ない

「だったら…練習に戻ってくれない?目障りなんだよ」

それはもう恐ろしかったはずだ。赤也なんかもう半分泣いている。しかし、参謀はどこにいったのやら。参謀がいればまだましだったのに

「ゆ、幸村?すまんな。」

俺の腕の彼――真田が若干震えた声でそう謝った

「真田?君が謝ることないよ。悪いのはそいつだからね」

そう幸村はにっこりと笑った。纏ったオーラがなければ、それはまるで天使の微笑みに見えただろう

「なんじゃ。男の嫉妬は見苦しいぜよ、幸村」

「へえ、そんな戯れ言いっちゃうんだ。さて…撲殺、絞殺、刺殺、焼死、水死、あぁそれとも…じわじわ苦しみながら殺してほしい?」

ありゃ…気がつけば周りは全滅しとる。今日は部活どころじゃなくなったな

「死ぬのは勘弁じゃ。というか、周りのやつらが死にかけとるぞ?」

幸村はちらっと辺りを興味なさげに見渡して、すぐ視線を戻した。薄情なやつ

「ああ、テニス部員なら死なないから。」

どんな自信だ、どんな

「精市?お前いったい……」


ああ、神の助け。参謀がやっと戻ってきた。さすがというか、この状況でも平然としている

「やあ、柳。ちょっとそこの馬鹿にお仕置きしてるんだ」

それを聞いて、参謀は深いため息を1つした。そりゃあ呆れて当然だ

「止めておけ、部員が死ぬ前に。どうせ仁王にはやっても無駄だ」

「それは誉められたのか貶されたのか分からないナリ」

「一応誉め言葉として受け取れ。で、お前はなにしてる?」

「ん?真田を抱きしめとるだけじゃよ?」

ついでに、ちゃっかりキスしたんだがな

「精市、くだらないことで怒るな。」

「柳、俺が言いたいのは…場所考えろってことなんだけど」

参謀がきてくれたおかげで多少なりとも幸村のアレは収まった。といっても、部員はまだ潰れたままだが

参謀と幸村の言い争いなんぞ珍しいな。ん〜真田あったかい。お子様体温じゃ。あ〜いかん眠いナリ。ちょっと眠ってもいいだろう

「ん…仁王?お前、なんか熱い」

くてっと寄りかかってきた仁王の体は思いのほか熱かった。額を仁王のそれに合わせるとかなりの熱さで、焦った

「れ、蓮二。ちょっときてくれ。」

幸村と何か言い争いをしていた蓮二を呼ぶ。この熱は微熱どころじゃない


「弦一郎?なにか…」

「仁王だ、仁王。熱があるんだ」

近くにきた蓮二が手を仁王の額に当てる。すると少し驚いた表情をした

「これは…仁王のやつよく学校までこれたな」

「そんなにか…。蓮二、仁王から抜け出すの手伝ってくれ」

「いや、そのままでいいだろう。なにか冷やす物とってくるな」

そう言って、校舎の方に向かっていった。え…?そのままって?

「はあ、やっぱりね。だから帰そうとしたのに…全く馬鹿だなぁ」

幸村を見ると優しげに微笑んでいた。やっぱりなんだかんだ言っても部長だな

「さ〜なだ。あったかいぜよ」

寝言のような、普段の口調からは程遠い…まるで子供のように甘えたもの。珍しいものを見れたな

「弦一郎、」

蓮二の声に視線をそちらに向ける。手には冷えピタを持っていた

「これを張ったら弦一郎も休んでおけ。どうせ仁王はお前を離さないだろうしな」

「ああ、分かった。全く世話のかかるやつだ」

「そうだな。さて、精市。部員を起こすぞ。練習だ、練習」

「柳って…容赦ないよね」

少し(いや、かなり?)手荒に倒れている部員を起こす二人を、木陰で見ながらゆっくりと時間は過ぎていった

たまにはこんな日も悪くはないな


.


仁真で、実は高熱というオチ
ありきたりですみません
よろしかったら一言どうぞ



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ