素晴らしき戴きもの
□※赤ずきん〜あるいは少年と愉快な仲間達〜/溝山×川田メイン
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赤ずきん(1)
むかしむかしのお話といってしまわないと角が立ってしまいそうな、昔々のお話です。
とっても似ている人物達や事務所があったとしても、それはきっと、架空の世界のお話なのです。
『赤ずきん〜あるいは少年と愉快な仲間たち〜』
むかしむかし、あるところにとても可愛らしい少年がいました。坊主頭にキリリとした目、鍛えられた体を持ちながらも、どこか可愛らしいのは「天然」というものなのでしょうか。
ある時、少年のおばあさんが赤いビロードの布で少年の被る頭巾を作ってくれました。
「あ、あの……東堂さん……?」
「今は東堂さんじゃなくて、おばあさん、でしょ?」
なんて、楽しそう言われて少年は困ったようにスキンヘッドの青年を見上げました。
「それに、修吾君、短い髪だから、頭に何か当たったら困るよね。だから、はい、頭巾」
それを言うなら東堂さんでしょう?という言葉を必死で飲み込んで。
何故なら、少年は坊主に毛が生えただけといえる短く刈り込んだ頭髪を有していましたが、おばあさんは見事なまでのスキンヘッドだったからです。
「ホントはニーハイのハイソックスとか、フリルのドレスとか着てもらっても良いけれど、それじゃ修吾君が溝山さんに襲われそうだし」
「い、あ、あれは……! 違、だからっ」
セーラー服を着て、手酷く抱かれたことは少年の記憶に新しいことでした。そういえば、その時もおばあさんは妙にニーハイに拘っていたような気がします。
「うん、だから、頭巾だけ。じゃないと、話が進まないでしょ?」
「東堂さん……」
少年はがっくりと力が抜けてしまい、はあっと深いため息をついてしまいました。
「修吾君、いつもの赤いTシャツ着て、セットでね」
「……はい」
嬉しそうに言うおばあさんに少年は結局大人しく頷くことしかできませんでした。
何だかとってもノリノリだと思って、思わず恨みがましくその長身を見上げると、ゆっくりとあばあさんは笑いました。
「じゃ、赤ずきん、またあとでね」
ひらひらと手を振っておばあさんは部屋を出て行きました。
「はあ……お疲れ様でした……」
どう反応していいのか分からず、結局、少年はいつもと同じように頭を下げただけだったのです。
ある日、お母さんが仕事の手を休めて少年を呼びました。
「あ、はい。お疲れ様です、篠宮さん。何かあったんですか?」
「こら。お母さんと呼ばなきゃ駄目だろ、修吾君」
「篠宮さんまで……」
ふうっと溜息混じりに少年が呟くと、お母さんはゆっくりと目を細めて笑いました。
「それよりな、赤ずきん、大変なんだよ。おばあさんが病気になったんだ」
「おばあさんて、東堂さんが!? 何の!?」
さっきまで元気そうに笑っていた青年の笑顔を思い出し、少年は慌てました。
ひょっとしてひどい病気だったのに、自分を心配させないようにと元気そうに振舞っていただけなのだろうか。
そんな少年の様子を見て、お母さんはゆっくり笑いました。
「大丈夫だよ。役の上でだけだから。あのおばあさんが病気になるわけないだろ?」
何気に失礼なお母さんの言い草に、少年は小さく笑いました。
「おばあさんはおまえをとっても可愛がっていたからね。お見舞いに行ってあげるといいよ。きっと喜んでくれるだろうからね……多分」
「はい。じゃあ、行ってきます」
「それじゃ、このケーキとワインを持っていくと良い。意外と甘いもの好きだからな」
「実は俺もです」
くすりと笑って、少年はかごをお母さんから受け取りました。中にはすでにケーキとワインのボトルが鎮座しています。
「でも、赤ずきん? 本当に一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。一人で行けます、俺」
「でも、心配なんだ」
眉根を寄せて、それでも心配そうに見やるお母さんに少年は明るく笑いました。
「東堂さんのところに行くだけですから」
「……それが心配なんだよ。しかし、今の仕事の予定はずらせないし……」
どうしてもお母さんでなければ動けない仕事が入っているようで、お母さんは顔をしかめてしまいました。
実際、少年が一人で出かけるのは初めてのことだったので、お母さんは心配で堪らなかったのでしょう。学校からのお迎えですら、強引に頷かせてしまうのですから。
「修吾君、いいかい? 絶対に寄り道したらいけないからね。怖いオオカミが出るかもしれないけれど、絶対に無視して真っ直ぐに行くんだよ」
「はい! 大丈夫ですっ!」
疑うことを知らない少年に、お母さんは思わず苦悶の表情を隠せません。
「オオカミに話しかけられても、絶対に知らん顔するんだよ? 付いていったりしたらいけないからね。どんな悪さをするか、本当に分からないからね」
「篠宮さん、大丈夫ですよ。俺、ちゃんと東堂さんに届けますから」
少年はおばあさんに作ってもらった大切な赤いずきんを頭に被りました。
「ほんとに大丈夫ですから、俺。じゃ、行ってきますっ!」
お母さんを安心させるように、少年はことさら元気に笑って家を出て行きました。