素晴らしき戴きもの

□君に夢中
1ページ/10ページ

君を眼で追ってしまう

君をかまいたくなってしまう

君を守りたくなってしまう


こんなにも君に惹きつけられてしまう


ほら、こんなにも君に夢中なんだ



『君に夢中』


※""は弓道用語。解説はあとがきにて。


「弓唯、今の"会"(カイ)やけど、6秒は余裕で保っとったよ。その重たい弓引いとって、"はやけ"にならんのは流石やねぇ。射形の崩れも射癖も僕には見当たらんし」

手に持っていたストップウォッチを高天に見せながら、うんうんと感心して頷きながらマネージャーである睦月はそう告げた。

「そうか。有難う、睦月。日生部長からも何かありますか?」

高天は睦月の隣で同じく自分の射を腕組みをしながらじっと見ていた、部長の日生に声をかけた。
日生はふっと力を抜いて笑う。

「いや、睦月と同感だな。強いて言うなら"離れ"の時に"弓手(ユンデ)"が少し下がるくらいだ。それも気にするほどのことはないと思うがな。…まったく、お前の射にはつくづく恐れ入るよ」

「いえ、俺はまだまだです。御指導頂き有難うございました」

そう頭を深く下げてから、二人の下を離れて所定の位置に弓を立て掛けると、高天は正座をして"馬手(メテ)"である右手にしていた"弓懸(ユガ)け"を外す。

今は正規の部活の時間外、つまり自主練習の時間。全国区である弓道部には部活後だというのに、多くの者が道場に残っている。
もちろん高天も残っていたが、自分で決めた一日に弓を引く回数を上回ると射形を崩す恐れがあると考える高天はずるずるといつまでも道場に残っていることを好まない。引き終えると、早々と練習を切り上げるのだ。
その後で声が掛かれば他の者を指導したり、弓や矢の弓具の手入れをしたり副部長としての雑務をこなしているのだ。

慣れた手つきで弓懸けを片付け、高天は射(ウチ)込まれた矢を回収するために道場を出ようとする。すると、そんな高天を目敏く見つけた後輩に声をかけられる。

「あ、高天先輩、"矢取り"ですか?自分も一緒しますっ」

「そんな。副部長、俺が行きますよっ!!」

「そうですよ、高天先輩が矢取りなんてしなくてもっ…」

その声に高天は足を止める。
一人では確かに矢取りは数が多すぎて無理だ。
高天はすでに弓掛けを外している者を探す。

「長倉、佐々木、頼めるか?」

「「はいっ!!」」

名前を呼ばれた二人は、嫌な顔一つせず、目を輝かせて威勢の良い返事をして高天の後に続く。
彼らにとっては、高天はまさしく憧れの的なのだ。
その端麗な容姿に似合う、美しい射。
1年から団体戦のレギュラーの座を勝ち取ったうえに全国へ弓道部を導き、2年で異例の副部長に大抜擢をされたその存在。
中等部から部に入っている者はもちろん、高等部に上がってから高天目当てで他の部からわざわざ弓道部に移籍した者もいるほどだ。

しかし高天自身はあくまでマイペース。
普通それだけ羨望と憧憬の眼差しを向けられれば図に乗りそうなものだが、彼にとってはまるでどこ吹く風。

そんな高天はもう日が落ちて暗い外に出て、ぽつぽつと雨が降り始めたことを確認した。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ