素晴らしき戴きもの
□一日中ずっと番外編
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私立高校3年野球部主将。
安岡一樹。
今年の夏、県予選では惜しくも2回戦を突破ならなかった俺は先週の日曜を持って部活を引退した。
が、新キャプテンへの跡継ぎなんかで今日も部活に参加しくたくたになって寮の大浴場に入っていた。
もう9時過ぎてっし、夏休みだし、誰も来ねーよな。
そう思っていつもよりのんびり体を洗う。
体を洗い終えて立ち上がったときに入り口の扉が開き顔を上げれば入ってきた人物とパチリと目が合う。
その瞬間思わず後ずさってしまった。
入ってきたのは城野潤司(シロノ ジュンジ)。
学校1のナルシストで、顔は綺麗だけど俺はどうも城野を好きになることができない。俺が一方的にに避けていたのもあるけど唯一の接点といえば1年の時に一度だけ同じクラスになったことがあるだけだった。
2年、3年に上がっても城野の噂は良く聞いていたが聞く限り相当の遊人らしい。
俺、こいつすっげー苦手なのに…。
つーか、なんでこんな時間に風呂入ってんだよ。
「やぁ、安岡くん。なんか久しぶりだねえ」
肌白…。
近寄ってくる自分とは対象的な真っ白な肌を思わず凝視してしまった。
すぐに我に帰ってぶっきらぼうに返事をする。
「ああ」
俺は決して無口なわけじゃない!
が苦手な相手を前にすると途端に口を閉ざす。
友達曰わく「お前以上に好き嫌いが激しい奴見たことない。」らしい。
だって嫌いな奴と喋ることなんかねえだろ?
だが、そんなこと、まったく気にしていない城野は相変わらずの調子で俺に話しかけてきた。
「安岡くん野球部のキャプテンになったんだって?すごいなあ、俺には到底真似できないよ」
「ああ、もう引退したけどな」
遅せえよ。いつの話してんだ、お前は。という意味を込めて皮肉を城野にぶつけた。が、城野は少し首を傾げただけで笑ってごまかしはじめた。
「あれ?ああ、そっか野球部負けたんだもんねぇ。残念だったね、なんだっけ……えーっと」
「甲子園?」
「そうそう。その甲子園に行けなくって。俺も一応、応援してたんだよ?」
一応ってなんだ。一応って。
あ…また試合に負けたこと思い出しちまった…。
痛い記憶をほじくり返されてますますイライラが募る。1年の頃も一樹は城野のマイペースな行動には相当イライラさせられていた。
本当は湯に浸かってゆっくりしていたかったのに。
だが城野がいたんじゃゆっくりなんて出来る筈がない。湯に浸かるを諦めてさっさと出口に足を向けると不意に腕を掴まれ引き寄せられた。
「お湯に浸からないの?安岡くん1人で寂しいみたいだから俺が一緒に浸かってあげるよ」
そう言ってずるずると湯船まで引っ張られる。
「ちょっ、いいって!俺もう上がるから!!」
「まあまあ、最近最近の1年、なにかと乱暴じゃない?安岡くんは大丈夫だろうけど俺が狙われたら大変」
結局は自分の保身のためかっ!
確かに城野が言うとおり最近の校内はなにかと物騒だ。柄の悪い新入生が入ってきてからレイプ事件が急増している。……男子校なのに。
俺も実は1年の柄の悪い奴らには近づかないよう心がけていた。
今後のあるから殴れねーし。
俺は未だ貞操を守り続けている。
それは1、2年の間で必ず貞操を奪われている3年生の間ではかなり珍しく、狙われやすい。
風変わりなこの男子校に入ってからは俺は抱けと言われても、抱かせろと言われても、自慢の俊足で逃げ回った。
「俺さ今、セックス記録出してんだよねぇ」
「セックス記録?」
突発な城野の話に思わず声が高くなってしまう。
「そうそう、ちょっと友達と賭けしててね。この夏の間中でどっちが多くセックスできるか争ってるの。今のところ俺の圧勝だけどねぇ」
バカバカしい。
としか言いようがなかった。
そんなので抱かれる方も抱かれる方だ。賭けでセックスするような奴と寝てなにが楽しいんだ。顔が良ければそれでいいのか。
「安岡くんもどう?あんまりタイプじゃないんだけど同じクラスだったよしみで気持ち良くしてあげるよ?」
こいつ…。
一瞬、俺の中で本物の殺意が芽生えた、が元キャプテンが人殺しでは野球部に迷惑をかけてしまう。なんとか踏みとどまりながら真顔でいった。
「性感染症……」
「は?」
城野は目を丸くする。
ザバッと湯船から出て振り向き際にもう一度言う。
「性感染症………かかってるかもな」
ショックを受けたような顔の城野を鼻で笑って風呂からあがり更衣室で体をふきながらふと思った。
男同士でも性感染症ってなるんだっけ?