シリーズ

□15
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「アキ兄、俺ちゃんと頑張るよ……このままじゃ何処の高校も受かんないもんな……」


和浩の部屋。ゲームを回収する際に0点の英語の小テストを発見しワナワナと震える俺を見て、和浩はやけにビビった顔でそう言った。

え?お前本気か……?今まで散々母さんに泣かれても全く取り合わなかったお前がか……?

いまいち信用出来ず横目で確認すると、和浩は引き攣ったような顔で後退り、何度も大きく首を縦に振った。

「本当!本当だって!分かった!80点取る!」

「……は?」

80点だと?お前絶対無理だろ。0点から80点てどんだけ飛躍すんだよ、もっと現実的な数字を出しなさい我が弟よ。いくら兄ちゃんでも呆れちまうよ……

とは流石に口に出せない。何と言うべきか逡巡していると、何故かこのタイミングで和浩がパッと顔を輝かせた。
え?

「頑張る!俺マジ頑張る!だから次の英語の小テストで80点以上取ったら何かお願い聞いてくれる!?」

ぬおおおおっ

怒涛の勢いで詰め寄ってきた和浩に押され、一歩だけ後ずさった俺に、和浩は更に背伸びして顔を近付けてきた。
それを引いたまま見下ろし、勢いに流されるままに頷く。

「あ、ああ。80点以上だったらな。」

「おおっしゃあああーーー!!約束!約束だからな!破ったら怒るよ!あっ誓約書……っ」

「……大丈夫だって、分かった、約束守るから、な」

「いええーーーい!じゃあ今から勉強するから!アキ兄もう出てってよ!」

「え、おい和浩、俺勉強見て」

勉強見てやろうか、言いかけた俺を部屋から押し出し、和浩はドアを閉めてしまった。
無情にも勢い良く閉まったドアを眺め、うーんと頭を掻く。
まあ和浩にもプライドがあるんだろう。兄貴に頼りたくない年頃というか。
でも一人じゃ無理じゃないのか和浩、俺に頼ってくれたっていいじゃないか……

若干寂しく思いつつ、いやこれが男子の独り立ちってもんなんだろうと感慨深くも思う。
そして目的のゲームを返して貰っていないのに気付いたのは、翌日になってからだった。





「隣の悪魔15」





「兄貴いいい!!やったぞおおお!!」

学校から帰って玄関の扉を開けると、雄叫びと共に和浩がリビングから飛び出してきた。
唖然としている俺に物凄い勢いで抱き着いてきた和浩を抱き留め、何とか落ち着かせようと背中を軽く叩く。


「どうした」

「あっくうううん!!和浩がやったのよぉおお!見て!見てこれ見て!」

リビングから今度は母さんが出てきた。
珍しく母さんまで何だか取り乱していて若干の恐怖を感じたが、玄関の扉を背負っているためこれ以上下がる事も出来ない。
その間に和浩に抱き着かれたままの俺に詰め寄ってきた母さんは、目前に何か白い紙をグワッと押し付けてきた。

な、何何何……!?

顔に押し付けられるのかと思い固く目を閉じたが、何かがぶつかる気配が無いため恐る恐る目を開ける。
ピントが合わずぼやける真っ白な視界、徐々にピントが合いだし……

黒の汚い字で島崎和浩、その隣に赤字で85と書かれている

用紙はどうやら英語の小テストらしい。
赤い線で書かれた丸の数が多く、85点。
島崎和浩……

「おお!?」

「俺俺!俺やったよ!英語の小テストで85点!」

「和浩おおおっあんたやれば出来る子だったのねー!母さん嬉し過ぎて死にそうよー!」

母さんが廊下で小躍りし、発狂したように喜んでいる。もう泣き出しそうな勢いだ。
状況が理解できた瞬間、俺は和浩の脇に手を入れ天井に掲げるよう抱き上げた。
驚きの表情を見せた和浩だったが、直ぐに得意げに「へへーっ」と笑う。

「アキ兄っどうよ!」

「お前…!俺お前を信じてたぞ、やったな和浩!」

あの約束を交わした日から僅か2週間だ。たったそれだけの間で0点から85点という飛躍をしてみせた和浩に、正直に誇らしさすら感じる。
お前はすげぇ、すげぇ野郎だ和浩、兄ちゃん今だけならお前に脱童貞の先を越された事を認めてやってもいい……!

あまりの嬉しさに、母さんのように小躍りしてしまいたい気分だった。
しかしその気持ちは抑え、代わりに和浩を廊下に下ろし力一杯抱きしめる。

「ぐええっちょっあきっアキ兄……!くるしっ苦しい……!」

「あ、ああ悪い、しかし和浩良くやった、本当に良くやった……!」
やばい兄ちゃんマジで嬉し過ぎて涙が───


「もうこれも全部梶田先生のお陰ですよぉ!本当にありがとうございます先生!」

「いえいえとんでもない、和浩君が頑張ったからですよ。僕は少し勉強の仕方のコツを教えただけです。」

「先生には何とお礼を言って良いのか……!家庭教師料上乗せって勝手にしちゃっていいんですか?」



 
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