シリーズ

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「あ、それは本当にお構いなく。和浩君の勉強を見たのは僕が好きでやった事ですし、授業料とかは受け取るつもりはないです。」

「でもそれじゃあいくら何でも甘えすぎなんじゃ……悪いわぁ」

和浩を抱き締めたまま、聞こえてきた会話に固まる。
リビングから出て来た梶田が、母さんと笑顔でやり取りを交わしていた。

な、何〜〜〜!!??

「和浩っお前梶田さんに教えて貰ってたのか!?」

「おう。さすがまなみのカテキョだよ、すっげ分かり易かった。まあ何はともあれ俺の実力だけどな」

ふふんと得意げに鼻を鳴らす和浩を見下ろし、正直にとんでもなく微妙な心境だった。
な、何で兄ちゃんは拒否で梶田には教えて貰ってんだよ……!?
俺だって中3の勉強くらい教えてやれんのに、俺より梶田が頼りがいがあったって事なのか……!?
男として、いや兄として屈辱に言葉も出ない。

は!?まさか梶田、何か和浩に変な事してねぇだろな……!?
この変態野郎……!
無言で梶田を睨みつけていると、俺の視線に気付いたのか、黒縁眼鏡の向こうのしっかりした二重の目がこちらに向けられる。

「ただ、お母さん。実はお願いがありまして。和浩くんがテストで80点以上を取ったら、僕の家で泊まりがけで祝勝会をしようという話になっていたんです。図々しいかもしれませんが、それを許可していただければ嬉しいなぁ」

梶田の言葉に、母さんは「そんなのいくらでも!いや寧ろ益々先生に迷惑かけちゃうなんて申し訳ないわーでも先生がよければ……」とか言いながらも何故か二つ返事でOKを出してしまった。
俺の腕の中で和浩までもが」「やったー!」と万歳している。

ちょ、待て待て待て待て……!普通に断るだろ……!

「おい待てよ、駄目だろ普通に考えて。親戚でもねぇ大学生の家に泊まりに行くとか」

「えーっ何でっ俺スッゲ頑張ったじゃん!でも駄目なのかよ!?」

自分としては極めて常識的な事を言ったのだが、否を唱えた途端に和浩がぶすくれた表情をして不機嫌になってしまった。
待ってくれ和浩、兄ちゃんはケチしてお泊りはダメとか言ってるんじゃないんだぞ?お前が心配だから言ってるんだ。
ほら考えてもみてくれ、いくらまなみの家庭教師で人柄も良く善良な大学生だとはいえ、こいつはアレだ、男もイケちゃう男なんだぞ。

うわ!マジで絶対ダメ!和浩が狙われている……!

「和浩、兄ちゃんが遊んでやるから」

「ヤダ」

ぐはぁ!!
代替え案を出してみたものの和浩にスッパリ切って捨てられ、正直吐血と共に床に倒れ込みたい程のダメージを喰らった。
俺の腕から摺り抜け梶田に走り寄るまだまだ小柄な体に、恨めしい視線を送ってしまう。
そして和浩に抱き着かれ、更にドヤ顔で俺に笑ってみせた梶田に果てしない殺意が沸いた。

おのれ貴様、まなみや母さんだけでは飽き足らず和浩まで……!

わなわなと握り締めた拳が震えそうになるのを必死に抑えている俺の視界で、和浩が梶田にひそひそと耳打ちし梶田が笑顔で頷く。
そのやり取りにも俺は憤死しそうだ。

和浩は俺の弟なんですけどーーー!?
和浩おおお!兄ちゃんの何がそいつより嫌なんだ!あれくらいの英語なら俺だってまだ教えられるっつーに

ショックと怒りと悔しさで視界が暗くなりかけている時、梶田が俺に向かって再度笑いかけてきた。和浩もこっちを見て何やら目を輝かせている。

「彰宏くん、お兄ちゃん同伴でってのはどう?それなら心配ないんじゃない。お母さんもそっちの方が安心ですよね?」

「そんな、私は梶田先生の事はもとから信頼してますってば。えー?でもあっくんまで……先生大丈夫?」

えええ!?俺も!?

拒否もしない母さんの言葉。それに答えたのは、元気いっぱいの和浩だった。

「だぁーいじょうぶだって!な、センセーっ俺すっげ楽しみ!!アキ兄と梶田先生の家に泊まりにいけるなんて……!こんな楽しいご褒美あんならまた次のテストも頑張れっし!」

「あっくん、先生のご迷惑にならないようにね。」

次も頑張るという和浩の発言のあと、母さんが秒速以上の速さで俺を振り向きそう言い付けてきた。
笑顔だが目が物凄くマジだ。当然か、今や事態は和浩の将来を左右するところまで来てしまっている。

「……梶田先生、ありがとうございます。あの、ところで日程は……」

「今週の土曜から泊まりがけで、にしないか?」

「ひゃっほーー!やったやった!頑張ったかいがあったーー!」

俺と梶田のやり取りに、飛び跳ね喜ぶ和浩の無邪気な声が被る。
若干の頭痛は感じつつも、和浩がこんだけ喜んでて次からも頑張ると言ってるしいいか、と和浩の勉強に関しては状況が好転してきた事に若干の安堵も感じた。

……まあ、梶田センセイは性癖はアレとしても、家庭教師としては凄く有能だ。ソレは認めよう。
なんだかんだで、まなみには変な事してねぇし。


 
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