シリーズ
□17
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「よう彰宏〜!久しぶりだな!」
「あれ、英造さん?こんにちは、お久しぶりです」
コンコン、ガラガラッ
部屋の窓がノックされ、振り向くと同時に開けられる。
圭人の部屋から顔を出したのは英造さんで、俺は自己学習を切り上げベッドに腰掛けた。
「隣の悪魔17」
「何何ー、お前まぁた背ぇ伸びたんじゃん?」
「えーと、確かに中学からは伸びましたけど、もう殆ど伸びなくなっちゃいましたよ」
「そんだけありゃ十分だろっ羨ましい、俺も欲しかった夢の180台……!」
くうーっと顎の下で拳を握り締めている英造さんに、軽く笑ってしまう。
英造さんは飛鳥兄ちゃんの友達だ。結構長めのパーマの掛かった黒髪を頭の後ろで結んでいるという独特な髪型だが、顔はちょい垂れ目気味な顎髭の似合う男前さん。
まあ西武劇とか侍モノとかに出てきたら普通、てとこか。何にせよイカレピンク頭の圭人程奇抜な髪型ではない。
英造さんは昔からスケベというかエロい話が大好きで、色んなわけの分からない話や知識を聞かされてきた……
中学生の頃、俺の部屋に友達が遊びに来ている所にAVを持ち込んで来たのもこの人だ。
今思えば、その時のAVの見様見真似で圭人にやったフェラが大惨事の始まりだったんだよな……はああ……
「飛鳥がさー、土曜の夜なら圭人も彰宏もいるし久々に実家で飲むかっつって来たんだけど、俺のこと置いて買い出し行っちまってよー。こうなったら秘蔵のAVでも持ってねぇかいっちょ家捜ししてやるかな」
「飛鳥兄ちゃんがAVすか?うわ、持ってなさそうだけどなー」
「馬鹿お前、実家には昔買って忘れてたとか、そういう部類のが大抵あるんだよ。よし、見付けたらお前も呼んでやる。一緒に見ような!」
「楽しみにしてますね」
任せとけ、とウインクし、英造さんは圭人の部屋から出て行った。恐らく同じ2階にある、飛鳥兄ちゃんの部屋へ移ったのだろう。
英造さんは変態くさいところもあるが、俺は昔から好きだ。
気さくでエロい話が大好きで、俺達にも同世代の友人みたいに接してくれる。
飛鳥兄ちゃんは「お前いい加減にしろよな……」と呆れていることも多いけど、冷徹美人系の飛鳥兄ちゃんとおちゃらけノリノリ系の英造さんのコンビは、実は見ていて楽しいと思ってる、俺。
まあ英造さんには悪いが、飛鳥兄ちゃんの部屋からAVは出ないだろう。あの人の事だし。
てか今晩飲み会かよ……俺は飲まないけど、遅くなるのは必至だな。
早く片付けてしまうためにも、再び自己学習のノートにペンを走らせ始めた。
「おい彰宏!あったぞ!多分これだ!」
「ええ!?」
再び英造さんが押しかけてくるまで、10分もかからなかっただろう。
窓を開けた英造さんが「早く!いいから早く!」と俺を急かす。
うそ、あったのかAV?飛鳥兄ちゃん持ってたのかAV……!?
「まじっすか、予想外だな……」
「馬鹿野郎、男はみんなエロいんだよ、持ってるに決まってるだろ、当然なの、当然。」
圭人の部屋に移動しながら呟いた俺に、英造さんはドヤ顔で言い放ってきた。
え、持ってて当たり前なのか……!?どうしよう、俺一本も持ってねぇよ、エロ本すら母さん達の突入が怖くて持ててないっつーに
「お邪魔しまーす……」
英造さんに続いて飛鳥兄ちゃんの部屋に入る。普段帰ってこないせいか、黒が基調になっている飛鳥兄ちゃんの部屋はいつも綺麗なままだ。
しかし勝手に入っていいものか。俺が悩んでいる間にも、英造さんは飛鳥兄ちゃんのテレビの下でゴソゴソやっている。プレーヤーを弄っているんだろう。
英造さんと飛鳥兄ちゃんの間柄だから許される行為だ。
つかもしかして、パッケージも見ずにいきなり再生しちゃう感じだろうか。
うわ俺、心の準備とか全く出来てねーって……!
「え、英造さん、いきなり始めちゃうんですか?」
「おう。つかな、しかもこれ、自撮りだ。」
「自撮り……?」
「カメラの中に入ってたんだ、自撮りに違いないだろ」
そう言って英造さんが、CDを取り出し蓋を開けたままのビデオカメラを指差し興奮気味に言う。
つか、それって逆に変な映像の可能性少なくないか……?
飛鳥兄ちゃんが普通に友達とか家族とかの動画を入れている可能性の方が高いだろう。
俺は寧ろ安心してベッドに腰掛けた。
英造さんはがっかりすんだろうな……
「よっしゃよっしゃ、スイッチオン」
英造さんがテレビのスイッチを入れ、画面を切り替える。
圭人とか映ってんじゃねーかなあ。
『っううっけ、とっやめっ俺、明日まなみとっ買い物…っ』
『俺以上に優先させるものなんか、お前には無くていいんだよ。』
『何…っ』
プレーヤーの起動はもう済んでいたのだろう、真っ黒だった画面に画像が映る。
『ふあっやぁ…っ』