シリーズ

□18
2ページ/4ページ








大好きな大好きな雅広さん。
俺はずっと、雅広さんと一緒にいれると思っていたんだ、あの頃は。


「飛鳥、この人、英子さん。俺達な、卒業したら結婚しようと思ってるんだ。」

俺が小学2年の時だった。
ある日突然、雅広さんが知らない女性を家に連れてきた。
雅広さんが、「この子が飛鳥だよ」と、女の人に俺を紹介する。

「こんばんは、飛鳥くん。私英子っていいます、よろしくね。いつも雅広くんから飛鳥くんの話は聞いてたんだよ」

優しそうな笑顔のその人は、俺の目線に屈んで握手のために手を差し延べてきた。

「飛鳥です。よろしくお願いします」

挨拶を返し握手をしたけれど、俺は心が軋むのを感じていた。
雅広さんを盗られた、何故かそう思ってしまったからだ。
でも、無下には出来なかった。
決して造形が似ているわけではない、でも、優しそうな笑顔が、達子さんによく似ていたし、英子さんの手は、とても柔らかくて温かかった。

それに。

英子さんと並んで話す雅広さんが、見たこともないような、照れたような笑顔を浮かべていたから。




そうして、翌々年。
無事に夫婦となっていた雅広さん夫婦と、そしてなんと我が家に、新しい命が同時に誕生した。
うちの両親は俺を若くして生んでいたから十分可能なのだが、まさかこの年で弟が出来ようとは、考えてもいなかった。

俺の弟は圭人。両親が言うには、俺が生まれた時と瓜二つだという。
圭人が生まれた事をきっかけに、両親は俺が生まれた時の思い出話を話すようになった。
あれだけ放任で育てられたと思っていた割に、両親が色々と俺の事を分かっていて意外に思った記憶がある。
母親が達子さんにとても感謝していること、俺の事に関してきちんと状況のやり取りをしていることも、この時に知った。

そして、島崎家も長男だった。
名前は彰宏。「男の子だったらお父さんと同じ読みの漢字つけたかったんだってさ」と、デレデレににやけた雅広さんが、聞いてもいないのに教えてくれた。
俺の弟の圭人と、雅広さん達夫婦の長男・彰宏。
病院で並んだベッドに寝る二人を見たとき、どちらも同じに可愛いと思った。


うちの両親は、決して子供を愛していないわけじゃない。でも、どちらかというと子育てに向いていない。

圭人には寂しい思いをさせないようにしよう。俺が可愛がればいいんだ。

それは純粋に兄としての想いであり、何より大好きな雅広さんの弟である自分の覚悟だった。
そして、彰宏。彰宏のことも同じように大切にしようと決めた。
俺が島崎家にしてもらった恩を、返して行きたかった。
それに、やっぱり、雅広さんの息子だからという想いが強かった。

圭人は凄かった。どう凄いかといえば、まだ新生児に近い割に的確に彰宏に嫌がらせをする。
母達が談笑する横、隣に並ぶ彰宏が寝るとぐずる。そして彰宏が起きると寝る。
あまりの事態に、母親達が笑い話から顔色を変え、早々に談笑を止めそれぞれを抱き抱え家に引き上げる程だった。

お互いに動けるようになる頃には、圭人は彰宏にべったりだった。
仲がいいと言うより、最早圭人が彰宏に嫌がらせをしていると言っていい。

圭人が一歳にもならないうちに復職した母親に変わり、やはり島崎家が俺達の面倒を見てくれた。
あの頃はまだ同居していた達子さん一雄さん夫婦は勿論、雅広さん英子さん夫婦も、俺と圭人が家にいても当たり前というスタンスを変えずに接してくれた。

今思えば、うちの両親はやはり何処か非常識だし、島崎家はありとあらゆる意味で懐が広かった。

島崎家は、その後立て続けに次男和浩、長女まなみが誕生する。
俺は必然的に、圭人と彰宏メインで世話をするようになっていた。

やはり実の弟だから可愛い圭人。
そして、同じように可愛い彰宏。

圭人は我が儘の割にしっかりしていて、彰宏は泣き虫だった。いや、泣き虫というか、圭人にしょっちゅう泣かされているというか。
5歳にもなる頃には、弟や妹の世話をしたがる彰宏に圭人がヤキモチを妬き、その嫌がらせは激化の一途を辿っていく。
俺も悪かったと思う。ついつい圭人ではなく、彰宏に「兄貴なんだからそのくらいで泣くな」と言ってしまう。
女の子のように可愛い圭人を叱りにくかったのもあるが、意外に抜けている彰宏をしっかりさせなければという想いがあった。

「飛鳥ー、悪いな、彰宏まで見てもらって……」

「何でだよ、雅広さんが俺にしてくれたことだろ。俺は逆に嬉しいよ、圭人と雅広さんの子供が双子みたいでさ」

中学生になり、俺は正直良くない連中とつるむようになった。
勝手に寄ってくるのがその手の連中か、女子ばかりだったし、結局放任気味な両親のせいでもある。
でも、圭人と彰宏の子守は忘れなかった。

「助かるよ、でもお前も友達と遊びたい年頃だろ、無理すんなよ」

「それってお互い様だったんじゃないのか」

「俺はお前可愛くて仕方なかったからなー」

変わらずに撫でてくれる雅広さんの手。
優しい笑顔、優しい言葉は、この頃には俺の胸を的確にえぐっていた。

成長して、分かってしまったこと。
俺には雅広さん以上に愛しい相手なんて、存在しないということ。


 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ