シリーズ
□20
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「全員揃ったなー。じゃあバス乗って、席順通りに座るんだぞー」
担任の杉山先生が合図する。
俺達はバスの荷台に荷物を詰め込み、合宿のしおりに記載された通りの席を目指してバスに乗り込んだ。
「隣の悪魔20」
二学期が始まってすぐに、広森北高校一年生にとっては最も重要なイベントと言っても過言ではない行事が開催される。
クラスの親睦を深めるための一年生合同合宿だ。
広森北高は一学年が5クラスあり、それを半分に分けて2泊三日のキャンプをする。
俺は3組のため、1組2組との合同合宿の筈だった。そして4組と5組が合同、例年そうなっているのは知っている。
しかし今回、何故か3組と5組が合同だ。
どうして今年だけこんな微妙な飛び石組み合わせなんだろう、一週間前に配られたしおりを眺めながら疑問に思っていた俺だったが、その疑問はバスに乗り込んだ時に更に深まった。
バスも3組5組と半々に混ざり、合計2台で行くわけだが。
うっわ5組の連中柄悪……!
自分のクラスの見知ったクラスメイトの他、あまり面識のない5組の生徒は女子も男子もかなり派手に頭を脱色していたり服装がだらしなかったりと、ちょっと不良っぽい雰囲気を醸し出していた。
正直に動揺してしまう。どうしてこんなことに……つか5組なんだこれ?不良ばっかりじゃねえか
そしてガヤガヤとバスの車内は騒音に包まれていたのに、全員が俺を見て打ち合わせたかのように話すのを止めた。
ななな何で!?何でみんな俺を見てるんだよ!?
うわどうしようっやばいっもしかして俺これ目ぇつけられてる?!どうして!?やっぱ俺変な噂立てられてるのかな、まさか虐めのターゲットにされたりして……
同じクラスの男子や女子もあまり話した事のない中心系グループの人達ばかりで、俺は不安でいっぱいになってしまった。
真剣にしおりを読むフリをして、何とか誰とも視線がかち合ったりしないようにする。
ま、まあいいや。俺はどうやら圭人と並んで一番前の席らしいし、もう車内は見ないでおこう。
そう思うと少しだけ気が楽になる。視線を自分の席にやると、そこにはもう知らない女子が座っていた。
え!?
俺と目が合い驚いたように体を跳ねさせた女子から慌てて目線を外し、俺は再度しおりの座席表を見直して絶望した。
うわあああ馬鹿か俺!俺一番前の席じゃねえ!俺これっ一番後ろの席……!
そんなっあの何か見るからに更に柄の悪そうな人達がいる所に座るの!?何で!?何で……!?
「島崎ー、どうした、お前一番後ろの席だぞー」
入口で固まっている俺に、外から杉山先生の声。
振り向けば、俺の背後に何人か並んでしまっている。やばい。もう行かないとどうにもならない。
圭人はまだ乗り込んで来そうもないし、俺は激しい頭痛が襲ってきそうな予感を感じながら足を進めた。
バクバクと心臓が早鐘を打つ。
もうダメだこの合宿、始まる前からもうダメだ……!
「あ、彰宏くーん、こっちこっちー!」
絶対に誰とも視線を合わせないと決め後ろの窓を真っ直ぐ見て突き進んでいた俺は、まさかの名前を呼ばれて視線をやや下げた。
ん?あ、あれは……!
「え、エータくん」
一番後ろに座っていたのは、よく体育倉庫で一緒になるエータくんだった。
エータくんは俺に話しかけてくれる数少ない人間のうちの一人だ。
「待ってたよ彰宏くーん!早くおいでよ」
「ヤッホー彰宏くん!」
よく見れば、エータくんの他にもレージくん、ヒリュウくんと、体育倉庫お馴染みのメンバーが乗っていた。
な、なあんだ、よかった、知り合いいたよ俺……!
「おはようみんな、エータくんたち5組だったんだ」
「そだよー、合宿中宜しくね、彰宏くんと一緒で嬉しいよ」
挨拶すると、レージくんが笑顔でそう言ってくれた。
なんだか泣きそうになってしまう。本当に良かった。
「ありがとう、俺もレージくんたちと一緒になれて良かったよ」
「えーマジ!?彰宏くんにそう言って貰えると照れるなあ」
「ささっ座ってよ彰宏くん!お菓子あるから食べよ!」
促され、真ん中の席に座っているエータくんの左隣に座る。
みんな笑顔で迎えてくれた。
「彰宏くんさあ、最近体育倉庫に来ないから寂しかったよ」
「え、あ、ごめん。寺門先輩と名張さんによく呼び出されるから……」
「彰宏くんあの二人のお気にだもんねー。ね、今度俺達も寺門先輩と名張先輩に紹介してよー、あの二人超有名人じゃん」
「俺も俺も!」
「う、うん……」
三人に同じことを口々に言われるが、それはどうかと思ってしまう。
あいつら変態だからな……みんなを被害者にするわけにいかねえし……
「あ、おい……」
俺が悩んでいると、再び車内が水を打ったように静かになる。
全員がバスの入口を見ている俺もつられてそっちを見た。