シリーズ

□22
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「彰宏ー!暇か!?」

カラリと開かれた部屋の窓。
いきなり圭人の部屋の窓から登場した英造さんに、俺は驚きながら顔を向けた。




「隣の悪魔22」




「ど、どうも英造さん、暇は暇ですけど、どうしました」

唖然としたまま答えると、英造さんはニっと人好きのする笑顔を浮かべた。

「この間はごめんな。いやな、飛鳥の部屋には結局AV無かったじゃん、だから俺今日いいの持ってきたわけよ」

「いえいえ、そうですか。……えええ!?」

英造さんがさらりと口にした言葉に俺はぶっ飛んでしまう。
え、エーブイ!?!?

「ちょ、え、はあ……!?」

「まっさんと瑛子さんいるか?」

「ああ、下にいますけど……」

「俺ちょっと挨拶してくるから、後でな。あ、これやるよ」

慌ただしく部屋に乗り込んできた英造さんが、俺にわざわざ蓋を開けてサイダーのボトルをくれた。
英造さんは「お邪魔しまーす」と部屋を横切り、そのまま廊下に出ていく。
開け放たれた廊下、階下から、英造さんの「どもー!お久しぶりです!」なんていう挨拶と、父さんと母さんのはしゃいだような声が聞こえた。

「何ー、誰か来てんの?」

向かいの部屋から和浩が出てくる。

「英造さんが来てるぞ」

「えーっ英造さん!?」

「マジ!?俺も行ってこよ!」

隣の部屋からまなみまで出て来て、和浩と競うようにバタバタと階段を降りていった。一層賑わうリビングの喧騒。


「……英造さん人気あるんだな……」

飛鳥兄ちゃんと英造さんは中学時代からの仲間らしく、父さん母さんとも旧知の仲だ。
話が面白いしいいキャラしてるのもあって、まなみや和浩も懐いている。
俺も行こうかなーと思ったが、英造さんが発したAVという言葉がやけに罪悪感を生み、行くに行けなかった。
多分これから俺に見せてくれるんだろう。そう考えると、これからAVを見るのに知らん顔して団欒なんか出来る気がしない。

マジかー、一年ぶりくらいだな……そういうの……

予感に胸がドキドキしてしまう。
俺は英造さんがくれたサイダーをぐっと煽る。
炭酸が小気味よく喉に沁みて胃で弾けた。







「お待たせー!さあ行くか!」

ノックに答えると、英造さんが入ってきてニシシと笑う。

「ど、どうも。……マジで観るんですか?」
「俺よく考えたらさ、前回お前を期待させたまま放置しちゃったじゃん。健全な男子高生にあれじゃ失礼だったと思ってさー、今日はちゃんと持ってきたんだわ」

ヤケにキリッとした顔で言い放った英造さんが、「さあ行くぞ」と俺を急かしてくる。
俺はもう空になったペットボトルをごみ箱に放り込んで、いそいそと立ち上がった。

「もう飲んじゃったんだ?まずくなかったか?」

「いや炭酸好きなんで、ご馳走様でした」

「そうなん?お前酒駄目だからなー。まだ持ってきてるから、またやるよ」

「すみませんありがとうございます、お世話になります」

礼を言って頭を下げる。
俺にやけてないよな?ダサいぞ、見る気満々でにやけてたら。平常心だ平常心。

「つかお前と圭人の部屋ホントに隣り合わせだよな。これよく家建てたよなー」

「同じ業者だったらしいですよ。だからうちと圭人の家、鏡合わせみたいな間取りなんですよね」

「そいや前に飛鳥に聞いたわ。まっさんも瑛子さんもみんな元気そうで良かったわ。あ、今回和浩誘わなかったけど、お前的にそれでいいよな?」

「……!勿論、まだ和浩には早いですから」

「ははは、だけど和浩彼女とヤッてんだろ?」

「はあ……まあ……」

俺としては盛り上がりたくない話題だ。弟に先を越されるとか……
和浩の彼女はクラスメイトで、結構可愛い顔をしていた。
たまに遊びに来るんだが、あまり話したことはない。こんなにどうしようもない兄貴がいるなんて理由で、交際に悪影響を齎したら和浩に申し訳ないし

英造さんと話しながら、飛鳥兄ちゃんの部屋に入る。
飛鳥兄ちゃんも圭人も不在だった。

「あれ英造さん、飛鳥兄ちゃんとか圭人は……」

「帰り遅くなるんだと。圭人は知らないなー。だからAV持ってきたんだって、お前あいつらと見るのも気まずいだろ」

英造さんに尋ねると、ありがたいお答え。
ま、まあなぁ。人数は少ない方がありがたいってか、助かる、恥ずかしくなくて。
英造さんは前にも俺にAVを見せてくれたことがある。俺が今までに見た唯一のAVだ。
確か女教師モノだ。あの時は確か、部活関係の友達が何人かいて、恥ずかしさにみんなで茶化しあっていた気がする。

……中1だったっけ。まだあの頃はそんな仲間も居たなあ……
部活で俺と圭人がバッテリー組まされて、1年で唯一夏からレギュラー貰ってから上手くいかなくなっちまったんだよな……


 
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