シリーズ

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「何だてめぇは!?軍司君から離れろぉおお!!」

天気は快晴。
平和な昼休みの屋上に悲鳴が響き渡ったのは、秋の陽射しが暖かな日だった。


───その日。
大垣南高校でも「超問題児」として有名な不良、不破千景は、何時もの溜まり場である屋上に何時も通りに昼飯を食べに来て、とんでもないものを目撃した。

「軍司さん、この卵焼きどうですか?」

あーん

「ん、んむんむ…ごっくん、あ、凄く美味い…!」

「本当ですか!?良かった!」

とんでもない光景。
それは、不破が愛してやまない2年の先輩・石神軍司と、何だか良く分からない眼鏡のひょろひょろしたのが仲睦まじく弁当を食べている光景だった。
(周囲では大伴と佐川、その他いつもの面子が顔を青くしているのだが不破の視覚はそんなものを捉えちゃいない。)


暫くあまりの衝撃的な光景にフリーズしていた不破だったが、漸く我に返り冒頭の絶叫へと繋がる。

「おー千景、おはよう。」

呑気に挨拶をする石神のもとに大股でズカズカと駆け寄ると、不破は眼鏡のひょろひょろしたのをビシッと突き指し、超重低音、憎々しげにメンチを切った顔で吐き捨てた。

「何だてめぇはぁ…?」

「千景、こいつは「一年D組星野美雪です。軍司さんの恋人候補です。」ええ…!?」

すっと立ち上がり、不破に握手を求めるように右手を差し出す星野。

不破の元から切れやすい堪忍袋の緒がブツンッと切れた。

「ふざけんじゃねえ!!軍司君はなぁ、俺の未来の嫁さんなんだよ!!」

ばちぃん!!

不破が星野の手を叩き落とした。
睨み合う二人。

バチバチと火花を散らす二人の後ろで、石神が額に手を当て深く重い溜め息を吐く。

手の掛かる息子二人に悩む父。

そんな構図がピッタリ当てはまりそうな午後の風景だった。






「軍司君!何なんだよあの星野ってガキは!?昨日まで居なかったでしょ!?」

一年生でありながら二年生の石神の教室までやってきてギャンギャン怒鳴る不破に、石神は軽く返事をしながら5時限の授業の準備を進める。

「昨日の帰り道で友人になったんだ。」

「友人が弁当「あーん」なんてするわけねぇだろ!!たった1日で浮気ってどういうこと!?俺というものがありながらよ〜〜〜!!」

石神の前の席に陣取り、必死に訴える不破。
相手にしていない石神。

石神のクラスメート達は二人からなるべく距離を取って、そして必死で見ていないふりをしながら様子を伺っている。

石神は良き友人でありクラスメートなので問題はない。
ただし、不破はみんなにとって恐怖の対象でしかない。

あの問題児には別名が山ほどあるのだ。狂犬、悪魔、死神、etc…。
恐ろしくおざなりな別名だが、だからこそとんでもない。

まあ事実、不破は中学時代から、校内どころか近隣校にまでその名を轟かせる手の付けられない暴れん坊だった。

このクラスにも過去に暴行を受けたものが何人か居るほどだ。

しかし。

「もう5時限目の授業が始まるぞ。お前ももう教室に帰れ。」
「嫌だ!じゃあ俺もここで授業受ける!」

「アホか!ちゃんと一年の授業受けてこい!!」

石神は駄々をこねる不破の襟首を掴みあげると、そのままドアから廊下へ放り投げてしまった。

軍司の浮気ものぉお〜〜〜!

廊下から不破の悲鳴が聞こえる。

「みんな、本当にごめん、俺のせいで騒がしくて…」

不破を放り出した石神が、隅で固まっているクラスメート達に謝罪する。

「いやいやいいんだよっつか石神君本当に凄いよね!石神君にかかればあの不破も子供みたい…っ」

「うんうん、流石うちの番格…!」


文句を言われるどころか逆に誉めちぎられ、石神は気恥ずかしくて下を向いた。

自分では全く自覚が無いが、石神はここ大垣南高校の番格だということになっている。

まあ実は石神は「番格なんて古くないか、よその学校にもまだいるのかなぁ」と恥ずかしく思ってもいるのだが、否定したって今更なのだ。









「ヴォラアアアアアアーーー!!!くそ眼鏡ぇええええ!!」

ドガシャーン!!

5時限目。
その日、1-Dではごくごくありふれた現代国語の授業が行われていたのだが、実に一瞬で地獄と化した。
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