シリーズ
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県立大垣南高等学校。
上は勉学で全国でもトップクラスの成績を有しているものもいれば、下は中学から名を馳せているようなどうしようも無い素行不良の生徒まで抱える、かなり何でもありの高校だ。
ちなみに、バスケットボール部と弓道部、そして卓球部が全国大会常連の強豪校という一面も持つ。
そして。
この学校の悪ガキグループは、近隣校の不良から敬遠されるほどに恐れられている集団だった。
全く無自覚の最強番長(本人非公認)のお陰で。
「石神さん!ちわーす!」
「石神さんおはようございます!」
「ちわっす!」
「ちーす!」
「おはようございます石神さん!!」
「おはよう!みんな今日も元気だな。」
慈愛溢れる笑顔で挨拶を返され、玄関で待ち伏せをしていた自称石神軍団の面々(本日の総勢15人程度)は我先にと石神に群がっていく。
他愛もない話を必死にしてくる面々と、嫌がらずに笑顔で話を聞く石神。
大垣南高校の日常と化した朝の光景だった。
「石神さんに良くやったなって誉められたぜ〜!これで今日1日乗り切れるっ」
「良いなぁ。大伴、何で誉められたんだよ?」
「数学の小テストで60点とった。」
「マジかよ!?お前それ快挙じゃん!」
「へへ〜。実は前の日にサボリに行った図書室で、たまたま石神さんに会ってさ〜。教えてもらっちった、勉強。」
「はぁあ〜〜〜!!?超ずりーよ!!てか俺を呼べよ!!」
廊下をダラダラと歩きながら、大伴と佐川が小突き合いをしている。
「何してるんだ二人とも。急がないと遅刻するぞ?」
「すいません今行きます!」
「あーっ石神さん待ってくださいようっ!」
石神の背中を追って駆け出す。
二人にとってこれは日常だった。
大伴浩平、佐川泰彦。
二人とも中学(二人とも別々)から既に不良としてそこそこ名が売れていた。
高校に入ってからもバリバリ名を馳せていく予定で、不良高としてもそこそこ名の売れているここ大垣南高校に入学してきたのだが、石神に喧嘩を売った挙げ句に返り討ちにされ現在に至る。
まあそこはただ負けただけでなく色々と一悶着あったのだが、兎に角今では他生徒同様、二人は心底石神軍司に惚れていた。変な意味でなく。
「いや他の奴より俺の方が石神さんに惚れてる!」
「いや俺だ!て、お前いきなり何言ってんだ佐川。」
石神と同学年、更にクラスメートであるにも関わらず敬語を使用し、石神を崇拝する二人。
このまま卒業するまで、いや卒業してからだって側近として俺達は石神さんと仲良く平和(?)に過ごしていく筈だ。
二人はそう信じて疑っていなかった。
つい最近までは。
「うわあ!軍司さんの唐揚げ凄く美味しいです…!軍司さんのこんな美味しい手料理を食べられるなんて、僕は幸せ者だなぁ…。」
「コラこの眼鏡チビぃいい!!軍司君の手料理食っていいのは俺だけなんだよ!!」
「チビって、僕は不破君と同じ身長じゃないか。」
「!くぉおのクソ眼鏡ぇえ…っ」
「やめろ二人とも。何をくだらない事でいがみ合ってるんだ。ほら、好きなだけ食っていいから…」
右に黒髪眼鏡優等生、星野美雪。
左に奇抜金髪とんでも不良不破千景。
板挟みになって苦悩に眉根を寄せて溜め息を吐いているのは、厳ついスキンヘッドの石神軍司。
佐川と大伴は遠巻きにその光景を見ながら、面白くないとばかりに舌打ちをする。
現にちっとも面白くない。
前までは、自分達が石神と仲良く昼飯を食べていたのだから尚更だ。
星野美雪が石神に告白をしてから、石神の周囲は大荒れだった。
いや、星野が石神に告白しただけならば、そこは男同士ではあるが特に問題が無かった。
ただ星野の告白は、最凶のとんでも不良、不破千景のスイッチを押してしまったのである。
今まではたまに学校に来ては好きに石神にじゃれているだけだった不破が、星野の石神への告白を機に毎日学校に来て隙さえあれば石神に張り付くようになってしまった。
そして星野だけでなく、何と石神の周りにいる人間全てに敵愾心剥き出しで威嚇するようになってしまったのだ。
故に
「ん?佐川、大伴、そんな離れて食べてないでこっち来て食べないか?」
「「石神さん…!はう!?」」
「てめえら!!寄り付きやがったらしばき倒すからな!!」
「何を言ってるんだ千景!」
石神からのせっかくの嬉しいお誘いがあっても、不破が怖くて近寄れない。
よしんば今は石神がいるからいいとして側にいっても、執念深い不破に後で絶対締められるに決まっている。
「すいません石神さん、俺らちょい今話し込んでて…」
「すいません、石神さん。」
そうか、と言った石神の寂しそうな表情に、二人の胸が痛みに軋んだ。