シリーズ
□隣の悪魔1
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嗚呼、自分は何て不幸なんだ───
幸せになる為には、一体どの時点から人生を修正しなければいけないのだろうか。
初心に帰り、自分の中の一番古い記憶を思い出す。あ、もう居るよ。物心ついた時には既に苛められてたよ。
そりゃそうか。家が窓付きそうなくらい近いからな。
と言うことは、俺の不幸はまず両親がここに夢のマイホームを構えてしまった時点から始まるわけだ。
いや待て。しかしここは俺のじいちゃんのそのまたじいちゃんぐらいの世代から住み続けている家なわけで、長男の親父と母さんが結婚したらここに住むのは必然だ。
と言うことは、建て替えた時に隣の家と窓が付きそうな程狭い設計にしたのが俺の不幸の原点か。
いや違う。多分結局家が隣同士なら、俺はこいつから逃げられないから結果は今と大差がない。(それもどうやら圭人の兄絡みで、大分以前から交流があったらしいし)
ならばもう両親が出逢った事が不幸の原点だ。
二人が結婚したこと自体が───
て、二人の結婚が無ければ俺は生まれないじゃないか。
人の出生自体を総否定する気かコノヤロウ。
「なぁに黙りこくってんのアッキー。良いからハーゲンダッツのクッキーバニラ買って来いよ〜。お客様ももてなせない駄目人間なのお前は。そんなふうに育てた覚えはありません。」
鬱々とした思考を断ち切った相手を見る。
人のベッドでふんぞり帰っている勘違俺様ヤローの顔。
無駄に整ってる分更に苛苛倍増。
頭痛がする。ただの頭痛じゃない。物凄い高レベルな頭痛がする。
「…先ずお客様は窓から入って来ねぇしお前は何処をどうとっても客じゃねえしお前に育てられた覚えは無ぇし頭痛ぇしてかもう出ていってくれ。俺の前から消失してくれ。」
「あそう?じゃあ妹ちゃんの部屋に行っていい!?まなみちゃぁーん!」
「待て!いらっしゃいませお客様!お願い家の中には行かないで!」
こいつなんかを家の中に放ったらまなみがレイプされてしまう!
必死にしがみつくと、奴はニンマリ笑って俺を見下ろしてきた。
胃が痛い。ただの胃痛じゃない、もう痛いの最上級。モアザンベスト←違
「アッキー、お前頭痛いんだろ?頭痛い時はアイスが良いよ。ハーゲンダッツのクッキーバニラね。」
もう抗う術が無い。
「…冷凍庫に入ってるから取って来る。」
「はあ?あんのかよ、だったら最初から出せよう!」
ごん!
殴られた頭を抑えながら廊下に出て、俺は部屋の鍵を閉めた。
ちなみに部屋の内側に鍵は着いていない。
毎度窓から襲来してくる大王対策に、廊下からのみ鍵をかけられるようにリフォーム済みだ。
はああ…。何だかんだ言いながら、あいつの好物が入っている我が家の冷凍庫が憎い…。
やつ、我が儘大王こと長浜圭人(ナガハマ ケイト)。
傍若無人、傲慢不遜、自由奔放、冷酷無比、弱肉強食、焼肉定食。世界の中心は俺様だ。人がゴミのようだ。
奴に似合う言葉を列挙したらこんなもんだ。とんでもない。本当にとんでもない。
なのに顔は眉毛がきりっとした、大きな目のニ枚目だったりする。
そしてそんな圭人と俺は奇しくも、家隣り同士、性別男同士、同い年、という何故ここまでと思うほど条件丸被りでこの街で産声を上げてしまった。
しかも同じ小浜産婦人科で、同じ日に。
当然の如く家族同士仲が良くなり、家族ぐるみの食事会や買い物なんかが当たり前になり
そして俺が物心ついた時には既に、こいつが隣に存在していた。
母達は言う。
「彰宏とケイちゃんの赤ちゃんの頃?あー、面白かったわよ、ねぇ。」
「二人並べて寝せとくじゃない。そしたらね、大抵圭人が先に眠るのね。で、最初のうちは手足をパタパタさせてた彰宏君も、段々うとうとしてくるの。そして今寝そう、ってタイミングで」
「圭人君が突然火がついたみたく泣き出すのよね。ギャーッて。したら眠りかけてた彰宏がビクゥウッて驚いて、一緒に泣き出すの。」
「圭人は彰宏君起こすだけ起こしてすぐ寝ちゃうのよ〜。で、また彰宏君が眠りかけたら…」
「火が着いたように泣くのよね。その繰り返し。」
少なくとも、生後3ヶ月で既に俺は圭人にいびられていたらしい。
平和な記憶が無ぇわけだ。
幼稚園、小学校、中学校、高校。みんな、全部奴と一緒だった。
もう具体的なエピソードとかない、有りすぎて言えない。ひたすら、とにかく、日常的に。俺は圭人からストレスというか虐待を受け続けていた。
本能に忠実に生きる男、長浜圭人。
自分が面白ければ正義、つまらなければ悪、興味が無ければ存在すら認めない。
そして神様はこんな人間失格野郎に、更に天性の運動神経、つまり喧嘩センスを付けてくれちゃったもんだからもう誰にもどうにも出来ない。
無理。本当に誰か止めてください。
天は二物を与えずとは言うが、やつは甘いマスクに腕っ節の強さを兼ね備えている。
しかし俺は思う。
そんなものあってもどうにもならん。
神様はせめて、あいつにまともな性格をやるか、じゃなきゃせめて頭をもっと良くしてやるべきだったんだ。
そんなわけでやつには敵がとても多い。
多いというか殆ど総て敵だ。人類皆敵。