シリーズ

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窓の外、遠い景色を見つめて言う諸持。

くそう、仕方ないな…

「分かりました、先生。俺で良ければ取り返してきます。」

「本当か!?すまんな島崎!!」


俺の両手を掴んでぶんぶんと振る諸持。

あの悪魔のやらかした事だ、仕方がない。

それに第一、もしこのまま諸持が過労か何かで倒れて、俺の枕元に「栄養失調で河童で更に幽霊」なんていう日本の怖い伝説を凝縮したような怪物が現れては大変だ。呪われるどころかその場で即死しそうだ。

とりあえず、悪魔の居場所を探さなければ。多分校内にはいそうだけと。
購買に向かう、楽しそうな他の生徒が恨めしい。

ああ…折角の昼休みが丸潰れだ…




圭人の足跡は割と早くに見付かった。

うわヤべぇ…。ハゲが。ムラのあるハゲが確実に増殖している。

「!島崎!」

見ない振りをしようとした矢先に、ハゲ頭の二人組がこっちを振り向いた。

!?

な、何?何であの人金髪の前髪だけ綺麗に残ってんだ?頭綺麗に丸刈りなのに。

落ち武者前髪バージョンみたくなってる…!

ま、まさか…


「島崎ぃ!てめぇ長浜の代わりにとりあえず死ねぇえ!!」



うわ来たっいつものパターン!

突進しながらの右ストレートを、後ろに飛んで交わす。

「しぃまぁざぁきぃいい〜〜〜っっ!!」

うわうわうわ!凄い!凄い顔が凄い怖い!!
ハゲの顔は鬼気迫るものがあった。本気で怒っている。

何で俺がそんな顔で睨まれるんだ!?悪いのはあいつだろ!?

「死ねぇ!」

わわわっ
二人掛かりはきついっ
でもここ校舎内だし手は出せないしどうすりゃいいんだ。


「こらお前ら!何してんだ!!」

廊下の先から嗄れ声、慌てて振り返る。

教員に間違いない。


ゴッ!!!


「あ!」

左手の甲に鈍い衝撃。

グシャリと何かが潰れる感触の後、俺の手の後ろからズルズルとハゲが一人崩れ落ちた。

鼻血を垂れ流し、口を開け白目を剥いて床に転がったハゲ。

振り向いた勢いの俺のバックブローが、運が悪いことに顔面にクリーンヒットしてしまったようだ。

まだ立っているハゲと、突っ立っている教員と、全員固まったまま目が合う。


…ヤッチマッタ。


「おいコラお前!一年の島崎だな!」

「ふざけんな島崎ぃいい!!」

うわぁあああ

倒れたハゲを跨いで飛び越え走り、階段を駆け上がる。


やべぇやべぇやべえ!

何かもう最悪だ。

圭人ぉおおお!!お前はどうしてこんな事ばっかりして歩けるんだ!

どうしてっどうしてどうして!

どうしてうちのまなみはあんな男に懐いてるんだ!!!

「お前島崎だな!長浜を出せ!」

どおおおおっ増えた!

今度俺を追いかけてきたのは、ハゲでは無かったがどうやらどこかの先輩のようだ。


もう後ろに何人居るのか分からなかった。

走って、走って、走りまくって、追い詰められて階段駆け登って。

そして最後、これ以上行き場の無い扉を、俺は開けた。



今日も憎たらしいぐらい、空は快晴だった。


胸が苦しい、吸っても吸っても酸素が足りねぇ。
ああくそう、もう登ってきやがった。
何人いやがる、10はいるか。よく集まったな。
それだけあの悪魔の被害者がいる証拠だ。

後ろ目で確認して、振り返らないまま背中で敵を迎えた。

ニヤニヤと、勝利を確信した柄の悪い連中の嫌な笑顔が瞼に焼き付く。

そうかよ、圭人。俺に経験値上げろっつったが、これはお前からの洗礼か。

だったらやってやろうじゃねえか。


俺は学生服の上と、中に着ているシャツを脱ぎ捨て上半身裸になった。

振り返り、集まった不良共(ハゲ数名込み)に言う。

「相手してやる、まとめて来い。その代わり俺が勝ったら責任持って突っ込めよ。」


びしいっとその団体に指差して宣言する。

もう覚悟は決まった。
圭人め!絶対見返してやる!



「………………は!?」


狼狽える不良共。当たり前か。
しかし、無関係な第3者である俺を先に巻き込んだのはそっちだ。
一番悪いのは、自分に喧嘩を売ってくる先輩や同級の奴らの頭を片っ端から刈って歩いている圭人だが、奴に物の善悪を問いたって無駄だ。悪魔だから。

こいつらはまだ分からないんだ、人間ではない物を刺激した時、常識では考えられない仕返しを受ける事を。

しかし俺はもうそれは分かりきっている。
だから、割り切ってる。
逃げられないなら耐えるしかない。しのぐしかない。

何でそれが分からないんだお前らは!


「突っ込む…?どういう事だ…?」

「はっ、だから、俺に負けたらお前らは俺を抱くんだ。分かるか?」

俺の血となり肉となり経験値となり、圭人の暴挙に耐える糧となる。以上。

ああもう苛々する。



 
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