シリーズ

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…………小田原君?

やべ!そういやもうHR始まっちゃってんじゃねえか!?
うわーっもしかして心配して掛けてきてくれたのかな。

ピッ

「あ、はいっ島崎ですっ」


『どうやら本物らしいな』

「!」

電話の相手は、明らかに小田原君じゃなかった。

低い声に名前を呼ばれ、一気に胸中に不安が渦巻く。

これは、多分、いやきっと。
要するに、最悪の事態なんだろう。

「───小田原君は」

『彰宏君来ちゃダメっすよ!うぐっ』

電話の向こう、鈍い音がし、小田原君とおぼしき人物が殴られたらしい事が伝わってくる。

何て事だ、俺のせいで小田原君が…!


「おい、小田原君に触るんじゃねえ!!俺が目的なんだろう!」

『そういうこと。島崎、そのぬいぐるみとこの一年坊交換だ。今すぐ屋上に来い。』

通話が終了するのも確認せず、携帯電話を制服のポケットにねじ込みトイレから飛び出す。

左手でツチノコのぬいぐるみを鷲掴んだまま、もう無人となった通路を屋上まで一気に駆けた。


あいつら、小田原君に手を出してたらタダじゃ済まさねえ…!







屋上へと繋がる扉を開け放つ。
不気味なくらいに静かな空間。


今日の空は何か悪い予感を感じさせるどんよりとした鈍色の曇り空だった。

その下、フェンスに寄りかかるように立っている二人に、情けない事に俺の足は少しだけ震えた。

「寺門先輩、名張さん…」

この学校の、2トップ。

もとい、変態ホモ。

うわ、やばい逃げたくなってきた…
いやダメだダメだ!小田原君をちゃんと保護しねぇと…!


「よう彰宏、ちゃんと持ってきたな、ソレ。」

圭人と似た系統の綺麗な顔の表情は一切変えず、寺門が言う。
オレンジの頭髪が、風に靡いている。
名張さんはそこから少し離れた場所で、相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべていた。

「…先輩、これはお返しします。申し訳ありませんでした。」

ツチノコを手に、寺門に歩み寄る。
ちなみに俺、自分が悪くなくても謝るのには慣れてるから大丈夫。
昔から良くあることだ。

「謝れば済む問題じゃねぇぜ、彰宏。何が目的でソレ盗んだんだ。あ?」

な、何が目的と言われましても…!

圭人、お前何がしたくてこれ盗ったんだよ。
俺にはさっぱり分からん。
でも盗るからには理由が。何だ、何だこのツチノコの魅力って…


ん、ツチノコ…?


「あの、賞金が貰えるかもしれないと思いました。」

「は?」

「ほら、ツチノコ捕まえたら賞金くれるとこ、あるじゃないすか。」

寺門が目を丸くしている。
さ、流石に苦しいか。


「くっアハハハハハ!!」

突然響いた笑い声。
名張さんが腹抱えて爆笑していた。

そ、そんなに笑わなくたって。

「彰宏ぉ、違う違う、それさ、腹はそんなに膨れてるけど蛇のぬいぐるみだよ。蛇の。」

えっこれ蛇…!?

「さぁて、彰宏君。それさ、返しに来てくれたはいいけど…落とし前、つけなきゃいけないのは分かるよな…?」

名張さんの声のトーンが下がった。

二人に視線を戻す。

ですよね。


名張さんの言葉が合図だったかのように、右手の給水塔の裏手から、ハゲだの金髪だのの不良がわらわらと6人くらい登場した。

もう何度か見ている顔だ。

そのうちの、ハゲが引きずっているのは───

「小田原君!」

「んん!」

口にガムテープを巻かれた小田原君。
投げ飛ばされ、床に転がってしまった。

なんちゅーことを…!


「彰宏、そいつら全員倒せたら、一年坊主も返してやるしお前のことも見逃してやる。」

寺門の言葉。


つまり、これは俺にチャンスを与えるという名目の、体の良いリンチなのだろう。

頷く前に、下っ端不良連中は一斉に俺に向かい突進してきた。




顔面への攻撃は極力かわし、隙を見て殴りつける。
何人倒した。まだ3人か畜生。

目の前の茶髪を蹴り飛ばすと、背中に強い衝撃。
ぐらつく足に力を入れ、振り向き様に裏拳を顔面に叩き込む。

最後、振り下ろされた角材を掴んで止め、開いた右手を相手の顔面に叩き込んだ。

崩れ落ちるそいつを見ながら、手で止めた角材を床に放る。

カランカランと虚しい音を立てたそいつが静かになった時、そこに立っているのは、俺と寺門、名張さんの3人だった。


小田原君は───無事か。ちゃんと離れたところに座っている。


「小田原く…」

ガクッと膝が崩れる。
全身が有り得ないくらいに痛んだ。
クソ、6人は流石にきつかったか…

咳き込んだついでに触った唇は切れているようで、手のひらに血が着いていた。


俺に駆け寄ろうとした小田原君が、顔を真っ青にして固まる。

ああ、そうか。そういやまだ居たんだよな───



 
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