シリーズ

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俺が何でここで飯食ってるかって、ここは一年の溜まり場だし問題は無い筈だが…
教室は何か居づらくなっちゃってるし、小田原君も良くこっち来るし。
それに、ここに良く集まってるみんなは、俺と普通に話してくれるし。
ちょいガラ悪いけども。

寺門の出現に、その場に集まっていた他の一年生達が騒ぎ始めた。
え、駄目だぞおい。コイツは変態でホモなんだ。
こんなのに喧嘩売った日には、みんなまで俺の二の舞だぞ。

ああほら、小田原君までそんな怖い顔して、マズいマズいマズい。

「寺門先輩、どうしたんですか?」

極力当たり障りないように、オレンジ頭に尋ねる。
途端に笑顔になる寺門。
うう、相変わらず綺麗過ぎて嫌になる笑顔だ…

「可愛い彰宏と昼飯食おうと思ってさ。屋上に来いよ。」

嫌です!!つか可愛いって何ヤメテさぶいぼが…!

俺は断じて可愛くない。

げ!?みんなが変な目で俺を見てる…!

やはりこれは新手の嫌がらせのようだ。
きっと、生意気な後輩を追い詰めるための作戦に違いない。
現に俺は今、体育倉庫裏のオアシスまで取り上げられようとしている。

このままではマズい。


「わざわざ誘いに来てくれてありがとうございます。行きます。」

「ちょっ彰宏君…!?」

「素直なのも可愛いな。じゃあ行こうぜ。」

何か言いたそうに俺を呼んだ小田原君には、大丈夫だからと片手を上げて合図する。
本当に良い奴だよな、小田原君。






屋上に着き、寺門に促されるままにフェンスの前に陣取る。
今日は他の不良先輩達は居ねぇんだな…リンチではないのか。

ん?何だまさかタイマン…?

「彰宏、お前その弁当、お袋さんが作ってくれてんのか。」

寺門の視線は、俺の黄色い袋に入ったお弁当に注がれている。

嫌なとこ突いてきやがる。
実はこれ。

「自分で作ってます。」

「は?」

寺門の睫の長い目が見開かれる。

…言わなきゃ良かったな。

しかしこれは本気だ。冗談ではない。
俺は高校進学を機に「もう子供じゃないんだから」と母さんにお弁当を作って貰えなくなってしまった。

今では毎朝早くに起きてお弁当を作る日々…
お陰様で卵焼きと炊き込み御飯、ウインナーのアレンジたりが上手くなったけど。


今日の弁当は、今朝作ったゆで卵とウインナー、冷凍食品の焼売に、昨日の晩飯の残り物の野菜炒め、それと昨日の夜にタイマーセットして炊いたヒジキの炊き込み御飯。
実に庶民派な弁当だ。

「彰宏、弁当交換してくれ。」

言って寺門が突き出してきたのは、有名な弁当屋のスタミナ弁当だった。

は、はい…?

「そんで俺に食わせろ。」

はい…?

寺門はこっちに向けて口を開いている。
唖然として見ていると、催促するように寺門の指が俺お手製弁当を指す。
何、俺が食べさせるの…?

「…味は保証しないっすよ。」

何故俺が、とも思うが、こんな事で一々反抗してまた何か問題でも起きたらコトだ。

どれにしよう…ウインナーでいいか。

「あーんってやれよ。」

本当に何の嫌がらせだよ…

「はい、あーん」

自分で言って凄く悲しくなった。
可愛い女の子にしてもらうと胸が踊りそうなこの行動も、自分のぶっきらぼう且つ低音ボイスでやると鳥肌ものだ。

どうしようもないのでウインナーを寺門の口に放り込む。


寺門は目を閉じたままモグモグと咀嚼し嚥下すると、力のある大きな目でこっちを見てきた。

何だ、味は保証しないって言ったぞ俺は。

「彰宏…旨い。」

寺門は、不気味にも少し照れたように言った。

え、そう!?
そう言われたら悪い気はしねぇな。

「そ、そうっすか?」

うわやべ、寺門の顔がまともに見れん。
人に誉められるって恥ずかしいな。

再び口を開けた寺門に、今度は野菜炒めを差し出す。

そういや、まなみや和浩がちっちゃい頃はこうして御飯とかおやつとか食べさせてやったなぁ。
それが中学に入った途端みんなで離れていって…
うう…

はあ、じゃあ俺もせっかくだしこのスタミナ弁当もらうか。
こっちの方が俺の下手な弁当より遥かに美味そうだけど。

「いただきます。」

寺門の口に都度飯やおかずを運んでやりながら、自分も食事を開始する。
ん、やっぱ店の弁当は美味い。

「おい、次は飯がいい。」

「はいはい。」


『あーたん、まなみちゅぎはおしゃかなぁ〜』

『はいはい、あーん』

『あーんっ』

『あきにぃ、僕トマト〜!』

『トマトな、トマト。はい、あーん』

二人とも可愛いなぁ。
お兄ちゃん飯食う暇ねぇよ。



 
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