シリーズ
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あまりの行動に目を丸くした石神だったが、その目前の星野の固く目を瞑った顔に、内心溜め息を吐いただけで抵抗せず目を閉じる。
次いで侵入してきた舌にも驚かされたが、体をびくりと強ばらせただけで抵抗はしない。
星野の舌が石神の口腔内をなぶり、舌を絡めとる。
その刺激に石神の膝がガクガクと揺れ始め、仕舞には畳にズルズルと座り込んでしまった。
「っは、軍司さん、俺のキスで感じてくれた…?」
「…っ馬鹿、おま、こんな…っ」
「ふふ、文献でイメージトレーニングしましたから。始めてですが上手くいきました。」
「な…!?」
ファーストキスでこのテクニック!?何て恐ろしい男だ…
口の端から溢れた2人分の唾液を舐めとる星野を見て、石神が絶句する。
その石神の反応をどう見たのか、星野は石神の頬に手を添え、問う。
「え、まさか石神さんもファーストキスですか…?」
何を言ってるんだ、と思ったが、石神の顔は素直に赤くなった。
正真正銘初めてなので仕方がない。
無駄に硬派に生きてきたのが仇になった瞬間だった。
う、うわぁあああっ
その石神の反応を見て感動したのは勿論星野だ。
嬉しい、嬉しすぎる、というかもう可愛すぎる。
自分より遥かに体格の良い石神が、その強面な顔を真っ赤にし、自分の下で身を震わせているのだ。
下半身直撃ものの衝撃だった。
しかし。
「…!軍司さん、すみません…!俺、俺、生娘なアナタ相手に何て事を…!」
衝動より先に湧き上がった罪悪感に、星野は素直に石神の拘束を解いた。
展開の早さについていけていない石神を、強く強く抱き締める。
自分は、こんな純粋な人を相手に何をしようとしていたのか。
自分の行為を痛く反省している星野には、生娘ってと固まる石神の声は聞こえていない。
「俺、あなたが好き過ぎてとんでもないことしてしまいました…!」
「え、え…?」
ゆっくりと身を離し、星野は石神に土下座した。
「俺を殴って下さい…!俺、軍司さんを好きだなんて言って酷いことしようとしてました…!」
不良は拳で許す。これまた星野の要らない不良知識(しかも古い)だった。
頭を畳に擦り付けている星野に、石神の低い声がかかる。
「…分かった。顔上げろ。」
その言葉に、星野は唇を引き結び顔をあげた。
殴られるぐらいなら我慢できる。ただ、嫌われるのだけは耐えられない───
「え!?」
殴られる、そう思っていた星野は、何か温かいものに抱き締められ目を丸くした。
この広い肩。間違いなく石神だ。
「ぐ、軍司さん───?」
「馬鹿か、俺が殴ったらお前みたいな華奢な奴死んじまうだろう。それに───」
星野を抱き締める石神の腕が、心なしか震えている気がするのは気のせいか。
「…っ嫌じゃ、ないだろ…っ男でも、そんなに好きになって貰えたら…っ」
「軍司さん…っ」
身を離した石神の顔は、先よりも真っ赤になっていた。
気まずそうに星野から視線を外している。
星野は泣きそうになった。
だから、だから俺はあなたが大好きなんです。
「軍司さん大好きです…!ファーストキスご馳走さまです…!」
「そこは謝れよ!…ま、まあ、これであれだ、あいこにしてもらえないか。」
「はい?」
石神が顔を赤くしたまま、綺麗に剃り上げた頭をかく。
「だから、あれだ。ふぁ、ふぁふぁ、ファーストキスはお前とだったから、その、千景にされたことは」
ダダダダダッ
「石神さぁあーーーーあん!!てめぇ星野ぉおお!」
「石神さん無事すか!?」
「わああああ!?佐川、大伴!?」
石神の危機を察知し、立て続けに大伴、佐川が室内に飛び込んでくる。
喧騒のうちに、星野の奇襲は失敗に終わった。
暴走してしまったぁあ〜…
星野は一人、深いおう悩の末溜め息を吐いた。
いくら不破に先をこされ不安になったからといって、石神に無体な事をしていい言われはない。
石神があの懐の広さで許してくれたから救われたものの、本来ならば絶縁されても不思議ではない暴挙だった。
しかし、星野も気が気では無かった。
不破がどこまで石神に触れたのかを考えるだけで、胸がジクジクと痛み夜も眠れない。食欲もわかない。
わしゃわしゃと黒のショートヘアをかきむしる。
ああでも、あの時の軍司さん本気で可愛かったなぁ…
あのキスだけでとろけた顔、やらしかった。
最後までしたらどうなるんだろう、
『あっあ…っ美幸ぃ、あっいい…っ』
とか言って欲しいなぁっては!?俺反省してるそばから…!
「うわぁあっ軍司さん申し訳ありません!!」
「星野ー、謝るなら先生に謝れー、授業中だぞー。」
「俺はあなたを傷つけたくはないのに…っ」
「先生ー、星野君話聞いてません。」
「うんもういい。」
目に涙を浮かべながら黒板に向き直る教師。