シリーズ

□7
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「はっはぁっ」

くそっどんぐらい走ったんだもうわからんっ

人混みを抜け、道路横の鉄柵に腕を付き息を整える。
後ろを見ても、もう見知ったブレザーの集団は見えない。

───まいた、か…

やっと訪れた安息に、大きく溜め息を吐いた。






「隣の悪魔7」






遡ること30分前。

「おい、島崎彰宏。」

今日は帰っても、みんな用事で出かけて誰一人いない。
夕飯を外で済ませて帰ろうと、マックの前まで歩いてきたところで声をかけられた。

「牟田君…」

と、その他大勢が6人程。
牟田君とは中学時代から面識がある。確か牟田君も悪魔にからかわれてはよく泣いてたなぁ。
久し振りに会った同窓生に声をかけられるのは純粋に嬉しい。しかも、周りにいるのは友達だろ?友達と遊んでるのにわざわざ声かけてくれるなんて。

「元気してたか?」

話そうと歩み寄って、そして俺は固まる。
がしっと、牟田君に腕を掴まれた。

「島崎、あの長浜のクソ野郎は一緒じゃねぇのか…?」

その言葉と、睨み上げてくる険悪な目に嫌な予感が膨れ上がる。
え…俺たちって知り合いじゃ…


「まあいいや。先にお前をぶちのめして、長浜の前に突き出してやるよ。」

そのまま路地裏に連れ込まれ。
攻撃をくらいながらも何とか3人ぐらい倒れさせ、そのまま逃げて俺は今ここにいる。

………何て嫌すぎる話なんだ…

殴られた頬がじくじくと痛い。
俺ってやっぱ友達いねぇのかな。折角久々に会ったのにリンチしたくなっちゃうくらいムカつかれてんのかな。
俺は牟田君のこと、同じ悪魔の被害者として親近感を感じてたのに…

「…ぅう…」

やべぇ、何かすげぇ泣けてきた…

視界が歪む。じわっと目に滲んできた熱い液体を抑えるために、目頭を両手でつまむ。
くそぅ、こんな事今更じゃねぇか。俺に好意的な人なんて居ないって、最近は特に十分自覚してたはずなのに、情けねぇ。

「彰宏ちゃん?」


それでもこみ上げてくるものを必死に留めようしている時だった、名前を呼ばれたのは。

「名張、さん…?」

ちょっと離れた先に、見慣れた肉食獣系の男前。
何てこった、一番嫌なタイミングで嫌な奴に会ってしまった…
つか何で俺にちゃん付け。
似合わん。全く似合わん。

「お前、何かあったのか?」

「!な、なんでもねぇっす」


聞かれ、大慌てで目線を逸らし袖で目を拭く。
もう、俺は何でこんなに何もかも最悪なんだ。今これ以上のダメージを喰らったら、流石の俺も相当無理、立ち直れねぇ。
やり過ごすしかない…
つかここどこだ…?適当に走ってきたから迷ったっぽいな。

「ちわっす、いや、迷子になったみたいで…」

「え?そんで泣いてたの?」

ちょっと驚いたふうに声が少しだけでかくなった名張さん。
何でだ、今時高校男子が迷子になったくらいで泣くか。

…しかし、まあ、今は仕方ない。

「…そうっす。」

流れ出そうになった鼻水を吸ったら、ぐずっと音が鳴り何だか非常に情けない。
そのまま歩いて立ち去ろうとしたら、まるで手を取るみたいに緩く腕を掴まれ振り返った。

「…何すか…」

「彰宏ちゃん、大通りまで送ってやるよ。したら多分道分かるだろ?」

良い人とか、そんな人じゃねえのは分かってるのに、俺は思わず頷いてしまった。
この人、本当に笑顔だけは優しい善人だ。

まあ、迷子なのは本当だし、大通りまで送って貰えれば助かるしな。

「じゃあ行こうか。」

そのまま手を引かれ、歩き出す。


………何故俺手を繋がれてるんだ!


しかし今日は既に多大な精神的ダメージを受けているわけで、なんだかもう抵抗するのも面倒になり、名張さんに引きずられるままに歩いた。

こんな日は、大人しく帰ってジブリアニメでも見よう…
しかし俺、本当に嫌われてる…。このままいくと、10年後くらいには人類皆に嫌われてるような状態になるのでは。

うわぁああーっ圭人かよ!?
いや圭人はまだ女にはもてる。
俺は圭人以下だ…!

将来身よりもなく孤独死している感じのビジョンが頭に浮かぶ。

うわーっうわーっうわぁああああーっっ


バタン。ガチャッ

「彰宏ちゃんいらっしゃーい。ここ俺んちね。狭いけどゆっくりしてって。」

「あ、すんませんお邪魔します!いやいや狭いだなんて、めっちゃ広いし綺麗だし…」

広く清潔感のある玄関に、高い天井。
廊下や階段の幅といい、床材の光具合といい、この辺でこの規模の家だとかなり金持ちなんじゃないだろうか。
うわ緊張するな。俺こんな良い家入ったの初めてだぞ。靴ちゃんと揃えなきゃ。

「こっちこっち、俺の部屋二階だから。」

「あ、はい。」

名張さんに荷物を取られ、後ろから急かされるように階段を上る。


 
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