シリーズ

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二階も広ぇーすげえな…
しかしこんな家に入るような日が俺に訪れるとは。
人生って分からないな…
しかも名張さんの家に






は?



「ちょっえ!?家!?は!?え!?」

「遅い!ははは、彰宏ちゃん騙されやすすぎ。」

ガチャリとドアの鍵を閉め言う笑顔の名張さん。
俺馬鹿!?やっぱり圭人の言う通り馬鹿なのか…!?

「さて、と。手当してやるからそこ座れよ。」

へ?

「ぽかんとしてないでさ。彰宏ちゃん、口の端切れてんよ。」

あ。

言われて触れれば、唇にジクリとした痛み。
そういや、何発かくらったっけ。

「殴られたのかよ?彰宏ちゃん喧嘩強いの知ってるけどさ、あんま無茶しない方がいいんじゃない?」

言って、名張さんは静かに俺を見上げた。
その沈黙に、言外な何かが含まれている気がする。
嫌だな。何か、父さんに叱られてる時の雰囲気に似てる…
「言わなくてもわかるよな。」的な…

「…っや、あの…う…」

そして俺の口から漏れた言葉は、酷く胡乱で意味不明なものだった。
何をしてるんだ俺は。今時幼稚園児でももっとまともな日本語を喋るぞ…

ああ嫌だ、気まずい、帰りたい。

ん?いやそうか帰ればいいんだって、何でこんなことになるかね…

「ぶっアハハハハ!」

扉に向かおうとした時だった、名張さんが盛大に笑いだしたのは。
何ですか、俺そんなに変ですか。

「俺相手に何緊張してんだよ、彰宏ちゃん。その怪我も長浜絡みでしょ?可哀想に、彰宏ちゃん自体は人畜無害なのにな?」

本当に、この人は。
俺にあんな酷いことをしたとは思えないほど、優しく笑う。
どうしてあんたは、そんな誰も言わないような事を俺に言うんだ。
俺を分かってくれてるみたいな、傷口を覆ってくれるような。

「あ、俺…っ」

優しく頭を撫でられて、駄目だと分かってるのに目頭が熱くなる。
不覚にもポロリとこぼれてしまった涙を、名張さんの長い指が静かに拭い取っていった。




「…っ俺、俺はそいつのこと、そんなふ、っに思ってなかったっのにっ、きょ、久し振りに会ったらっいきなり殴られて…っ」

「そりゃあ酷ぇな。彰宏ちゃん何も悪く無いじゃん。」

「もっ俺…っヤだ…っみ、なにっ嫌われて…っ嫌がられて…っ居場所、ない…っ」

うあーっやべぇ、自分でもどうしようもないこと喋ってるって分かってるのに、止められねぇ。
名張さんが、こんな高1にもなって涙や鼻水を流してしゃくりあげてる情けない男のどうしようもない愚痴を、背中をさすりながら聞いてくれるから。
優しく笑って、時には俺と同じように苦しそうな顔して、今欲しい言葉をくれるから。

涙が止まらない、感情がおさまらない。

本当は、いつだって誰かに話を聞いてもらいたかった。
俺、違うんだ。確かに不細工でどうしようもない馬鹿かもしれないけど、本当に不良なんかじゃない。
ただ、みんなと笑って会話して、楽しく生活したいだけなんだ。

感極まり、名張りさんがくれたオレンジジュースを一気に呷る。

「彰宏ちゃん、言っとくけど、彰宏ちゃんは嫌われ者なんかじゃねぇよ…?」

「ふっえ…?」

何?

見上げた名張さんは、一瞬だけ気まずそうな顔して視線を逸らした。

きっと、俺を慰めるために嘘を言ったんだ。

「うっ〜〜〜〜っっ」

ますます悲しくなって、ベッドの上に体育座りして膝に顔を臥せる。
そんな嘘、つき通せないなら言わないでくれよ…!




「彰宏。」

肩に手を置かれて呼ばれた名前。
その幾分かトーンの低い声に顔を上げれば、真剣な顔の名張さんと目が合った。

やべぇ、俺いくらなんでも人んちでビービー泣きすぎ…
怒らせたか…?

オロオロしているうちに名張さんの顔が徐々に接近する。

うわっ何!?ちょっ近いっ近っ近い!!


「名張りさ…」

呼んだ声は、最終的に唇にぶつかってきた名張りさんの顔に阻まれた。

暖かくて柔らかいものが、唇に触れている。


………まさか…


「彰宏ちゃん、俺はお前の事好きだよ。」

唇を放され、ベッドに押し倒される。

「お前の泣き顔マジ好き…っもっと泣かせてやりたくなる…ほら、わかるだろ…?」

太股に何やら硬い物がゴリゴリと押しつけられた。

ああ、やっぱり…俺にただ優しくしてくれる人なんていねぇよな。

「…っ離せ…!」

「どうしたの怖い顔しちゃって。まだまだ泣き足りないだろ?思う存分発散させてやるよ。」

名張さんの茶色の前髪から覗く目が、ギラリと光る。
俺、本当に一回死んだ方がいい。何回同じパターンで騙されるんだ…!


 
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