シリーズ
□馬鹿弟初号機発動中1
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「兄ちゃん!俺を抱いてくれ!」
今春高校に進学したばかり。
初々しいスポーツ刈りの黒い頭を有した弟が土下座までして言った言葉に、俺の脳細胞は許容範囲を超え凍りついた。
「馬鹿弟初号機発動中」
「…分かった。こうでいいか?」
とりあえず、今自分に出来る最大限の努力をしてみよう。
康平を優しく抱き締め、頭を撫でてやる。
ビクッと体を強ばらせた康平を宥めるためにひたすら頭を撫でた。
もしや、俺が社会人になって一人暮らしを始めたのが寂しかったとか…?
普段は馬鹿一直線な弟で、可愛いと思うよりも「何故、どうして。あああアホーまた何かしてるしー」と呆れることが多いが、やはりまだ15歳。可愛いもんだ。
よしよし。よしよーし。
ザラザラとした短く柔らかい髪の良い手触り。
「で?」
「ん?」
「早く続きしろよ。」
ガバッと、康平の肩を掴み距離をとった。
酷く真剣な目と視線が合う。
「ごめん兄ちゃん意味が分からないな。」
「えー?んーと。俺とエッチして。俺をヤってしまってくれ。」
ガッ
プニプニと柔らかめな頬を両サイドから勢いに任せ挟む。
「何を言ってるんだお前は…!」
「ふぃーはふぉっふぉひいへふへよひぃひゃん」
「だから何を言ってるんだお前は…っ」
康平が顔を潰されたまま何かを訴えている。
はっもしや俺が挟んでるから上手く喋れないのか?
手を放す。
「それはちょっと聞いてくれよ兄ちゃん。」
やや赤くなった頬を揉みながら、康平が話し出した。
4月。
無事に高校への入学を果たした康平は、そのお馬鹿な性格とヤンチャ振りから、即座に2年の柄の悪いグループに目を付けられてしまったらしい。
そしてそれに悪い出来事が重なった。
たまたまクラスメイトがカツアゲされているのを見かけ、止せばいいのに助けに入ったのだ。
持ち前の小生意気でペラペラと良く回る口と、抜群の瞬発力を駆使しクラスメイトは無事に逃がしたものの。
「お前大丈夫なのか!?」
「大丈夫じゃねえから兄ちゃんにこんな頼みごとしてんだろ!」
で、まあ当然呼び出しを食らった。
3対1でいかつい先輩に囲まれたわけだが、持ち前の素早さで何とか逃げ切ったらしい。
ああああっ殴り合いなんかしてなくて本当に良かった、こいつまだ160ちょいとかしかないのに、無駄に態度だけは立派だからな…
で、まあ当たり前だが話は更に悪化した。
2年の悪ガキを切り抜けたことにより、何と3年生が出てくるという事になったと。
「…三年…?」
「そう。見てみたらさ、みんな背はでっけぇし大人みてぇな体格してんだぜ。顔も。ありゃちょっと流石にやべぇよ。」
康平は別に不良ではない。
悪ガキ、というか悪戯坊主、という感じだ。実際坊主頭だし。
小中と先生やクラスメートに対し「お前はアホか!」と叫ばれるような悪戯を繰り返してきたわけで、まあ俺も落とし穴に落とされたり寝ているとこに飼い犬のマルオを放たれ涎まみれにされたり、机の引き出しにウシガエルを仕込まれ顔に飛びつかれ失神したりと被害者のうちなわけだが、しかしこいつは不良先輩に目を付けられるようなキャラではないと思うんだが。
「つかお前、最初何したの?」
「黒板消しと教室の戸の相性試してたら、何でか二年の先輩が入ってきて黒板消し先輩の頭直撃、綺麗にセットした髪の毛滅茶苦茶、チョークの粉まみれ、俺のクラス爆笑。」
「そりゃ怒るわ…」
教師、いや聖人君子でも少しはイラっと来るだろう。
それが相手はキレ易い十代の、しかもキレることを信条としているようなヤンキー相手だ。
大事にならないわけがない。
「…はあ。で、それで何でお前が俺とヤらなくちゃなんねぇんだよ。」
「三年の先輩がさ、「テメェ、あんま調子こいてると新入生とか関係無しに袋にすんぞ」とか言いやがるからさ、「俺の鋼の肉体にはお前等のようなチンピラの拳等効かん!」て答えたのよ。」
馬鹿言え。
「したら急にゲラゲラ笑いだしてさあ、「そうかよ。じゃあ俺らの知り合いに男イケる奴がいるからよ、そいつにお前喰わせてやる。女みたいにビービー泣かせてやるよ。来週覚えとけよ」とか言うわけ。」
「…単なる脅しだろ…つかお前が馬鹿すぎてからかわれたんだろ…」
「マジだったらどうすんだよ!」
い、いや、そんな胸倉掴まれて揺さぶられても。
顔を真っ赤にして叫ぶ康平を引き剥がし、盛大に溜め息を吐いた。
荒唐無稽過ぎて、まともに取り合う気なんてこれっぽっちも沸いてこない。
「はあ。で?」