シリーズ

□10
1ページ/6ページ




長浜飛鳥、通称飛鳥兄ちゃんは圭人の兄で今年25になる社会人だ。
肩より少しだけ長めの黒い髪、圭人と似た、でも圭人よりも硬質で人を寄せ付けないような美貌。
あそこは兄弟そろって母親似なんだよな。
身長181cm、体重は知らんが細身。
簡単に言えば、兎に角冷徹美人。

冷静沈着で曲がった事を許さず「男は質実剛健」気質で、小さい頃から何度扱かれ叱り飛ばされてきたか分からない。
面倒見が良くて優しく、意外にゲーマーだったりで凄く頼れる人なんだが、それでも俺からしたら「絶対に反抗してはいけない人」の位置にいる。

いや好きだけど、飛鳥兄ちゃんのこと。
俺は島崎家の長男なわけだが、まあ実際は飛鳥兄ちゃんの弟みたいなもんで凄く可愛がってもらってる。

文武両道、喧嘩も滅茶苦茶強い。
そんな男の見本市な飛鳥兄ちゃんにも欠点みたいなのがあるのを俺は知っている。

飛鳥兄ちゃんは圭人にメチャメチャ甘い。
アレ(圭人の性格)は、実質飛鳥兄ちゃんが作ったようなものなのだ。








「隣の悪魔10」









飛鳥兄ちゃんは、10歳近く年の離れた圭人が可愛くて仕方ないんだなぁと言うのは、なんつーか物心付く頃から分かっていた気がする。
何かにつけ「圭人、圭人」と連れ回し面倒を見たがり、彰宏がいないと圭人が泣くからと俺までついでに面倒を見てもらっていた。

ちなみに俺は普段泣かないが、圭人にちょっかいを出され泣くことは多かったので飛鳥兄ちゃんには相当迷惑をかけたのではないかと思う。
5歳くらいの時には
「男がそう簡単に泣くんじゃない」
とか飛鳥兄ちゃんに窘められた記憶がある。
俺は当時からまだ中学生だった飛鳥兄ちゃんを尊敬していたので、あれ以来兎に角泣かないよう頑張った。

それでも圭人の虐待が酷すぎて泣くことは多々あったっけ。どうしようもないな俺…

でも本当に、女の子や下の子は面倒見て優しくしなければいけないって事や、物事の良し悪しっていうのは飛鳥兄ちゃんに教えてもらったと思う。

でも飛鳥兄ちゃん、圭人には怒らない。何やっても結構割と許しちゃう。

「圭人は可愛い。」

が昔からの口癖だ。

でもその気持ちは良く分かる。俺だって和浩とまなみが可愛くて仕方ないし、歳の離れた親戚のちっこいのとか可愛すぎて輝いて見えるくらいだ。
第一圭人は小さい頃、その辺の女の子より断然可愛かったし。
見た目だけは。

まあ反面俺は色々な事を叩き込まれた。
何度も「甘えるな」「男なら強くなれ」「信念を持て」「誠実に生きろ」「自分の身は自分で守れ」「他人を簡単に信用するな」等々名言と共に叱り飛ばされ続け、俺は飛鳥兄ちゃんに「男」というものの生き方を教わった。



強くて優しくて面白くて、圭人にはメチャ甘で俺には滅茶苦茶厳しいけどやっぱり頼りになる飛鳥兄ちゃん。
この人だけは絶対に怒らせないようにしよう。
そう心に誓って生きてきた。

筈なのに。


「彰宏、お前ホモだったのか…?」

完全にブラックなオーラを撒き散らしている飛鳥兄ちゃんが、ベッドに這いつくばっている俺の胸倉を掴んで凄む。

俺、未だかつてここまでとんでもない飛鳥兄ちゃんを見たことが、無い。

「ち、違います。」

目を反らしたら間違いなく「目を見て話せないのは嘘の証しだ」と怒られる。

恐怖にひきつりそうになる顔を何とか飛鳥兄ちゃんの整い過ぎて怖い顔に向けた。
動かなきゃマネキンとでも見間違いそうな顔が俺を見下ろしている。

ヤバい怖い怖い怖い…!
誰か助けてマジで…!

もう俺泣きそう。

「違う…?じゃあ何でお前はあんな男になんかに突っ込まれてたんだ?あ?言ってみろ。」

絶対的な命令が容赦なく薄い唇から発せられる。
ここで答えを間違えたら間違いなく俺は明日の朝を迎えることはない。

「俺に下手な嘘なんか言ったら…彰宏、分かってるよな…?」

冷たい漆黒の瞳に睨み下ろされ、それだけで冷や汗が背中から噴き出す。
嘘を吐いても絶対にバレる。

覚悟を決めた俺は、どもりながらも何とか口を開き…
どこをどう誤魔化せば良いか分からず、ここ最近の出来事を洗いざらい話した、全部。




「彰宏…」

「はい…」

結局駄目じゃねコレ?
飛鳥兄ちゃんがこんなこと許すはずない、軽蔑された挙げ句に殺されるんじゃないか。

「俺が何のためにお前をあんなに扱いて育ててきたと思ってるんだ!」

ごんっ

飛鳥兄ちゃんの鉄拳が頭にめり込む。
いっ痛すぎる…!


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ