シリーズ

□11
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「よしアッキー、ここ入れここ、」

「ちょ!?ヤダヤダやだって…!」

強引に引きずられてきた旧校舎の2階トイレ。
古く寂れた鉄筋校舎、薄暗い昔みたいなトイレに無理やり押し込められてはもう、何が何だかわからない。
圭人は性格に似合わず綺麗な笑顔で俺を一番奥の個室に閉じ込めると、扉を閉めてしまった。

「おい圭人!?何だよコレ!?」

校舎と同じく古く寂れた便所に恐怖倍増。
扉の向こうから、ビーッだのベタベタだのいう音がエンドレスで聞こえてくる。
何してんだよ!?

「っし、彰宏、俺これからトイレの花子さん呼ぶから。」

は!?

コンコンコン

ノックの音、3回。

「はーなぁこさん、遊びぃましょ〜」

気持ち悪い圭人の裏声一回。

ちょちょちょちょおい…!?何してんだ何してんだ

このトイレで花子さん喚んだよな今!?

きゃああああああああああ

「おい圭人!圭人って!マジ止めろよおい圭人ぉおおお!!!」

嘘扉開かねえ!?何しやがったんだあいつ…っ
げ!隙間から見えるこの物体はもしやガムテープ!?

「っし、お前は生け贄だ。何かあったらちゃんと報告しろよ!じゃなっ」


「ちげぇだろ開けろ!お前マジタチ悪すぎたろコレは!」

ペタペタと足音が遠ざかっていく。
俺の恐怖の時間が開始された。







「隣の悪魔11」





「だっ誰か…っ誰か…」

シンと静まり返った薄暗いトイレ、情けなく響く俺の声。
ここは北高の旧校舎、人なんて滅多に来る場所じゃない。
叫んで助けを求めようかとも思うが、声を出すことすら怖かった。
つか圭人、花子さんって…っマジで出たらどうすんの?俺どうなんの…?呪われるの?死ぬの?



カタン


「ひぃっ!?」

トイレの外で物音がした。びくっと体を強ばらせ息を詰めて様子を窺う。
それ以上は何も無かったが、俺はもう限界だった。
今にもどこかから花子さんが出てきてしまうんじゃないかと、現実では有り得ないと思いつつも想像が止まらない。

誰か探しに来てくんないかな、でも俺、捜してくれる友達なんかいないし…
思ったところでメンタルにガツンときた。
やばい、泣けてきた…
きっとイジメられてたり友達いない子って、こんなタイミングで衝動的に自殺しちゃうんじゃないか…

「…っひっうう、う…」


俺、本当に一人ぼっちなんだ。
あの圭人でさえ色んな奴とチラホラ接点あって遊んだりしてるのに、俺まともに遊べるのなんか圭人ぐらいしか…あとは飛鳥兄ちゃんと和浩とかだけだし…

でも、圭人のせいにしてるだけで本当は俺が悪いのかな。
不細工だからか。でも顔なんて変えようがないじゃないか。
性格…明るい自信はないかも…

「うっぐず…っうっひ…っ」

ずるずると壁を背にしてしゃがみ込み、一人なのを良いことに延々と泣いた。
も、花子さんでも何でもくればいい。俺なんか、居なくなったって何にも変わらないんだ…っ
うっでも俺今死んだら童貞のまま…っ
い、一回くらいしてみたかった…正直…

「おいここか!?」

へ!?

バタバタバタっ

「そうっす!こっから延々と気味悪ぃすすり泣きが聞こえるって一年が!」

「ったく、今時分幽霊なんかいるわけないだろーが。ん?何でこのトイレガムテープで塞がれてんだ、おい剥がせ。」

「うっす!」

ビリビリビリビリ〜っ

ガチャっ

「彰宏!?」

「ふぇ…っ」


開けられた扉の先。

見慣れたオレンジ頭の寺門と、その後ろの舎弟のみなさん。

「てっ寺門せんぱぁああいっ」

恐怖の花子さん劇場から解放された嬉しさで、俺は呆然としてる寺門に思わず抱き付いていた。
しかも泣きながら。なんてダセェんだ…







「ほぉ、あんなことになってたのは長浜に閉じ込められてだったのか。」

「はい…本当にありがとうございました…!」

旧校舎の旧応接室。
そこの取り残されたソファーに寺門と並んで座って、俺は今回の状況の説明をしていた。
因みにあの場に寺門達先輩方が来た理由は、たまたま俺の泣き声を聞いた一年の舎弟が「旧校舎のトイレに幽霊が出た!」と大騒ぎしたせいらしい。

すげぇびびったんだろうな、申し訳ないことしたな…

寺門がくれたお茶を飲みながら溜め息を吐く。
花子さん、出なくて本当に良かった…

「ところで彰宏。…お前、ついてるな。」

「はい、本当です。あんなとこで閉じ込められて、こんなたまたま見付けてもらえるなんて…」

「そうじゃねぇ。」

「え?」

寺門が整った顔でこっちをジッと見てる。
視線が集中してるのは俺の右肩の上あたりだ。

な、何だ何だ何だ…?


 
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