シリーズ

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ゴキブリとは何か?
勿論全国No.1の嫌われもの、黒光りしたり茶色かったりデカかったり小さかったりする、あのカサカサ歩き回りたまに飛ぶアイツだ、40億年とか地球上に存在し続けちゃってる驚異の昆虫だ。

噂によるとケツと頭どちらにも脳みそがあるとか、だから首切られても生きてるとか、寝てる人の口の中の唾液舐めてるとか…

とにかく触るのもおぞましいゴキブリ。

そして我が家には。

ゴキブリと書いて「兵器」と発音する馬鹿がいる。






「馬鹿弟初号機発動中2」







『ずじゅじゅずずっずんやぁあああ〜〜〜!ずんやぁああああああ!!康平がぁああ!ごっごぎゃぎゃああああーーーー!!イヤーッいやぁああああーーーー!!』

「母さん!?おい母さっ今行くから頑張ってくれ!」

会社帰り、携帯電話から轟いた母親のただならぬ悲鳴に、俺は駅へとひた走った。

これは間違いなくあいつだ!

「おい康平!」

駅を降りタクシーを捕まえて自宅の玄関を勢い良く開ける。

「くらえ必殺兵器!」

康平の声、そして俺に向かい飛んでくるもの。
黒い物体、シンプルな背面グロテスクな腹。


それがゴキブリで尚且つ羽を広げたと認識した瞬間、俺の視界は正しくブラックアウトした。









「ひいいーっいってぇ、母さん本気で殴るんだもんなぁ」

「当たり前だこの馬鹿!お前いい加減ゴキブリ人に投げるの止めろ!」


と、いうわけで。

『康平あんた今日は外で寝なさい!』

ゴキブリを投げつけられ、怒髪天を突く勢いで怒鳴った母に蹴り出された康平を回収し俺は今、一人暮らしのマンションに向かい歩いている。

我が家には家訓が一つだけあるのだが、それは
「ゴキブリ発見即殺」。いや勿論昔からそんな家訓があったわけではない。
それというのも、あれは何年前だったか。康平が突然ゴキブリを投げつけてくるようになったのは。

『いやあああーっ康平やめてぇええー!!』『ぎゃああああ!』『ちょっ康平…っううううっ!』『きゃあああああーっあーっ』『おいこっち向けんな!』『うわぁあああーっ』『ごごごごっごきぶりぃいいい〜〜〜!!』『あばばばばっ』『ぼえー!』

あいつがゴキブリを発見しようもんなら家族全員が断末魔のような悲鳴を上げまさに阿鼻叫喚地獄。

ゴキブリを片手(勿論素手)に「スーパー兵器!」と叫ぶ小さなモンスターに何度泣かされたことか…

うちではあの大のゴキブリ嫌いの母さんでさえゴキブリを見付けたら直ぐ始末出来るようになったのだ。
この馬鹿にゴキブリという金棒を持たせない為に。

どうやら今日は失敗したらしいが。

「お前な。いい加減ゴキブリ投げるの止めろよ。しかも母さんしか居ない時に…そのうち母さん倒れるぞ…」

「うーん。だって兄ちゃん達はみんな家に居ねぇだろ。父さんはあれやったらこの間リアルに倒れたから母さんに禁止されてるし」

「えええ!?お前何やってんだ馬鹿!」

ゴンっ

小さな康平の坊主頭を拳骨で殴る。

「いてーっ止めろよ!俺がこれ以上馬鹿になったらどうすんだよ!」

「うるせぇ。お前がそれ以上馬鹿になりようがあるか。」

睨みつけてくる康平のデコッパチを更に叩く。
拳がジンジン痛む。康平は恐ろしく石頭だった…







「あ?『兄ちゃんと試しにやってみた、俺にはアレは怖いし痛いしで無理だから、フルボッコで勘弁してください』って言ったら『え!?お前それマジ話か!?』て言うから、『嘘吐いても仕方ねぇじゃん。
滅茶苦茶痛かった。』って答えたら『ああ、そうか…何かごめんな…』て言われて普通に許して貰った。」

「うえお前俺とやった事言っちゃったの!?」

「おう、隠しても仕方ねぇだろ。」

「ああ…そう…ですよね…」

言い切った康平の態度は無駄に男前だ。

馬鹿お前。普通にトップシークレットだろ。

自室で寝る準備しながら「お前を男に喰わせる」発言をした先輩達とどうなったのかと問うた俺に返ってきたのは、康平の全く躊躇いの無い以上の会話だった。
嗚呼嘘、俺お前の先輩とかと絶対顔会わせられない、いや会うこともないだろうけども、言うなよ。普通言わないだろう。

…いやこいつなら言うよな、昔から良くも悪くも明け透けな奴だよなお前って…。

「よっしゃ!3面クリアー!」

ゲームに夢中の康平の小さいクリクリ坊主を後ろから眺め、溜め息を吐く。
まあ何にしろ、お前がレイプされずに済んだなら良しとする、だよな…。

まあ何だかんだ言ってあれから俺達も普通の兄弟してる。
今まで通り康平がたまに遊びに来て、俺とゲームやったり学校の宿題やったり。
俺なんか最初は意識して大変だったけど、康平があまりに自然なんで何か…


 
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