シリーズ
□12
2ページ/12ページ
「馬鹿かお前は。何で俺達が桜女の制服なんか着るんだ。」
震える指でそれを指し示す俺に、飛鳥兄ちゃんは溜め息混じりに言った。圭人も「当たり前だろ〜」と続く。
そ、そうか、良かったわ。着るわけないよなそうだよな…
しかし桜女て「桜麗女子高等学院」て超お嬢様高だよな?言われてみれば上がベージュのブレザータイプで下が赤系のチェックのスカートというのは間違いなく桜女の制服だ。可愛いと評判のアレだ。
しかし何故それが長浜家に…!?
「英造に押し付けられたんだが、まあ使える日が来ようとは思わなかった。」
飛鳥兄ちゃんがスカートを持ち上げ言う。
英造さんは飛鳥兄ちゃんの友達でちょい変わった人だ。
なるほど、英造さんか…持ってそうだもんな…
ん?
「て、ええ!?使う!?結局着るのかよ!?」
立ち上がろうと床を見れば、かなりの量の酒を開けたのであろう、大量の缶の山。しかもご丁寧に焼酎の空き瓶まで転がっている。
まさか酔ってるんじゃないかこいつら…!?
「だから俺らは着ないって言ってんだろアッキー。何回言わせんだよ、頭悪ぃなー。」
圭人が不機嫌そうに言い放った。いやでも使うって…
飛鳥兄ちゃんが普段と変わらない硬質な美貌のまま宣う。
「お前が着るんだ、彰宏。」
は!?
「えええええ!?は!?え!?何!?」
「そぉそー、ホラあっきー、とっとと着替えろって。」
圭人が綺麗な顔で恐ろしいセリフを言い放つ。
つか何故俺?お前か飛鳥兄ちゃん着た方がまだマシだろ。
「嫌だよふざけんなよ、何でんなもん着るんだよ…」
飛鳥兄ちゃんまで一緒になって何言ってんだ本当に。絶対に着ないだろ、似合わなすぎて自分でも気持ち悪いわ。
酔っ払いなんかろくでもない生き物よ!と父さんに激怒していた母さんの鬼のような顔が脳裏をよぎる。
つまりこの長浜兄弟が酔っ払ってしまった空間に長居は無用だ、明日まなみと買い物だしマジで帰ろう。
「飛鳥兄ちゃんゲームありがとう。クリアーしたら返すね。じゃ、俺明日早いから」
帰って寝るわ、お休み。
と続けようとしたのにその挨拶は途中でブツッと切れた。
出口に向かおうと扉に向き合った瞬間、もの凄い力で床に引き倒されたせいだ。
強かに床に打ち付けた背中や頭がガンガン痛む。
ちょ、ええ…?
痛みに呻いていると視界に影が差した。
条件反射で見上げて固まる。
良く似た、それでいて異質な冗談のような美形が二人、俺を無表情で見下ろしていた。
立ち上る真っ黒なオーラ。多分俺、今顔真っ青。
「着ないってか、彰宏。」
「俺に逆らうのあっきー。」
形の良い唇がそれぞれ淡々と言葉を紡ぐ。
怖ぇ怖ぇ怖え!何なのこの美形兄弟!?何したいの!?
「いや、だ、だって俺が桜女の制服なんか着てもどうしようもねえし…っ」
「飛鳥、あっきー着たくないって桜女の制服。」
「そうか。それは仕方ないな…」
圭人に話題を振られ飛鳥兄ちゃんが顎に手を当て考え込む素振りをする。
ちょ、圭人はともかく飛鳥兄ちゃんまで…!
しっかりしてくれ。
俺の願いが届いたのか、飛鳥兄ちゃんは「おお」と何か閃いたような顔で圭人に顔を向けた。
「まなみに着させるか。きっと可愛いぞ。」
はい?
はい〜〜〜〜!!??
「なっ何を!」
「あ、まなみちゃん良いねぇ呼んでくるか?きっと可愛いぜ。」
ニッと笑った圭人が答える。
あ、でもまなみなら確かに絶対可愛い。俺も着てるとこ見たいかも…
ちょ、ちょっとこのまま様子見ようかな。
「桜女の制服着せて可愛がっちゃう?まなみちゃん泣き声も可愛いだろうし。」
「圭人ぉおおおお!!」
何言ってやがるこのイカレピンク悪魔!
様子なんて見る暇もなく飛び起き圭人の胸倉を掴む。
「まなみに手を出したらぶっ殺す!」
「えー?殺せるもんなら殺してみろよ。俺はここでお前ぶちのめしてからまなみちゃん誘いに行ったっていいんだぜ?」
「お前…っ」
「それに忘れてないか?」
ポン。後ろから肩に手を置かれ振り返る。
長い睫に縁取られた綺麗な目と視線がかち合った。
「俺もいるんだぞ、彰宏。2対1で勝てるのか?」
チーンと悲しい音が脳内で鳴り響いた。
「うっわ…っ」
スカートというのは何故こんなに心許ない構造なんだ。
これさ、布を腰に巻いてるだけじゃねぇか。風呂上がりと同等じゃねぇか。
何で世の中の女性はこんなものを着用して颯爽と街を歩けるんだ…!?
いやスカート似合う子好きだけど、好きだけども…!
「サイズでかいの貰っといたからな、ピッタリだろ。」
桜女子の制服を着込み意気消沈で姿見の前に立たされた俺の背後には飛鳥兄ちゃん。