ノベル

□子犬
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「よっ…と」
海馬邸に侵入し、海馬の部屋に下り立つ。
もう手慣れたものだ

外は雨が降り続いていたため、傘は差していたものの、肩やズボンの裾が濡れた

「よー、かい…ば…」

おかしい、と思った

そうだ、海馬はいつも俺がこの部屋に入った時、俺の方を振り向いてくれた事は一度も無いのだ

「お前か」

どうしたんだ、今日は…
そんな切なそうな顔をして…
なんか、目も潤んでる気がする

「…今日は帰ろっ…かな〜?」
「外は雨だ」
「傘あるし?」
「もう暗い」
「へーきだって、んじゃまたな…ウグッ!!!」

ガッ!!と制服の裾を掴まれた

「離せよ!!磯野とかいるだろ」
「もうとっくに帰っている」
「モクバに相手してもらえ、お兄ちゃん」
「何時だと思っている。もう寝た」
「じゃーな」

力ずくで窓際に行こうとしたら、袖を掴んでる海馬がイスごとゴロゴロゴロ…とひっ付いてきてビビった

…いつもみたく、罵声が飛んでこない

こいつなりの気遣いなのかなあ

夜で、しかも雨が降ってて暗くて独りぽっち
…本当は今まで寂しかったのかなあ
口には出さねーけど!

珍しく怒られた子供みたいにしょんぼりしてる海馬に、つい心を許してしまいそうになる

こいつ、甘え方とか知らなそうだよな
寂しいとか悲しいとか弱音絶対言わないし

「…あっ、あれ、将棋板だろ?」
「!」
「お前んち何でもあるのな。本田と結構やったから出来るぜ」

やっと海馬の目が、少しだけ、いつもの強気の目に戻って来た

「ふぅん、貴様は負けてばかりだったのだろう」
「うっせーな!本田が無駄に強ぇんだよ!やるか!?」
「フンッ、望むところだ!!」


…雨があがる頃には、すっかり朝日も上り始めていた

海馬邸に、ニワトリの代わりに社長直々の高笑いが響いた

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