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□Happy Happy バースディ!(微えろ
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「遅いぞ!!この俺を待たせるとは!!!」
俺は、今日は絶対に遅刻しないように行こうと、待ち合わせの5分前には着くように家を出たのだが、海馬はそれより早く来ていたようだ。
「ワリィッ、どんだけ待った!?」
「…フン、たいして待ってない」
海馬は、黒いYシャツとズボンの上に、紺色っぽい長いコートを羽織っていた。
いつものようにスラリと偉そうに立っていたからすぐ分かった。
それにしても、ただでさえ細い腰が、ますます細く見える格好だ…。
夜はちゃんと耐えられるんだろうか…あ、いやいや…。
やべぇ、今日は俺が海馬を祝わなくちゃいけないのに、すでにドキドキしてる場合じゃない。
しっかりしないと。
「え、えっと、行くか。とりあえず」
今日は、まずスーパーへ行って夕飯の材料を一緒に買おうと言ってある。
「今日は、寒いな・・・」
「…ああ、けっこう寒いよなー。秋にしては」
「・・・寒いな・・・・・・」
「……え?で?」
「…ぇぇえええい!!!キサマは俺の言いたいことが分からんのか!!?」
「はぁ!?何ギレだよ!!なんなんだよ!!」
意味不明にキレた海馬は、いきなり俺の手をガッと掴んで、ずかずか歩き出す。
「お、おい!!」
しばらく、ずかずか俺を半ば引きずるように連れて行く海馬の背中をボーっと見ていた。
そして、お互いの冷えた手を繋げていることで、そこが徐々に温まっていく事で気づいた。
「わかった、わかったから!一旦止まれッつーの!!」
海馬は歩くスピードが速いから、もういつのまにか人通りが少ない所まで来ていた。
「こうした方がいいだろ…」
俺は、自分の左手を、海馬の右手に、指を絡めて繋ぎなおした。
「…ム」
海馬の表情から怒りが消える。
「ふん」
細い長い指が、握り返してくる。
それからスーパーに着くまでの間、一回も手を離そうとはしなかった。


「で、何買うか」
「夕飯の材料だろう」
「いや、だから何食いたい?って」
「…なんだっていい」
多分、考えたのだろうけど、庶民の夕飯がパッと思い浮かばないのだろう。
「なべとかどーよ」
「…ああ、それでいい」
『なべ』を想像したのか、海馬の顔は少なくとも不満そうではなかった。

一通り店内を見終わり、ピッ、ピッと飲み物や食品をレジに通していく。
すると、海馬がカゴの底から現れた飲み物にピクリと反応する。
「!貴様ッ…!」
「しーっ!」
慌てて海馬の口に手を当てる。
すると、海馬にしてはやけに大人しく言うことを聞いて、支払いが終わるまで黙っていた。


スーパーを出て、更に寒くなった外に出た。
日が落ちて真っ暗になった河原沿いを歩く。
静かな河原には、犬の散歩をしている人がいる程度で、平和な夜だった。
相変わらず手は絡めて繋いでいる。
その反対側の手で俺は買い物袋を持った。
「…俺達は未成年だぞ」
「今夜だけ」
しー、と自分の口に人差し指を当てる。
本当は不良時代に何度も飲んでいたが、今日だけはどうしても海馬が酔った姿が見たくて。
…うん、今日だけ。…また飲ませるかもしんないけど。
「どうせまた買うのだろう、凡骨め」
うっ、お見通しか。
釘を刺しつつ、人通りが少ない事もあってか、海馬は腕を絡めて体を寄せてきた。
「な、どっ、どうし…」
「今日は、特別に一人も護衛を付けていない」
えっ…。そういえば、気が付かなかった。大丈夫なんだろうか。
俺は背後や周りを見回し、本当だ、と納得する。
「貴様に守ってもらわねばな」
海馬がニヤ、と意地悪そうに笑う。
からかわれている気がしたが、海馬が何の考えも無しに護衛を外したりするだろうか。
俺なら海馬が危険な目にあったとき、守ってくれると、頼ってくれてるのかな…。
まさかそれぐらいの信頼を置いてくれているんだろうか…。
「お、おう!任せとけ!」
俺は握っている手を、強く握り返した。
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