コワイハナシ

□貯金箱
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ある日、なんとなく貯金箱を買った
別に高い物でもないし、ふ、と貯金でもしてみるか、なんて考えただけだった

その貯金箱は、白くて、シンプルで、そんな所が気に入って買った

買ってすぐに、100円や10円などの小銭を少しずつ入れていき、帰ってくるたびに貯金箱に買い物のおつりやバイト代を少し入れたりして
まるで植物を育てるかのように毎日貯金箱を可愛がっているようにも見えた

貯金箱を買って5日が過ぎたある日…

「うっウギャアアア!!?」
ただの白い筒だった貯金箱が…
…海馬の姿に

…いや、ナイナイ
誰かのイタズラだ


…小一時間程部屋中を探し回ったり
悩んだりしてみたが

現実を受け止めるしかないようだ…
「…そんな馬鹿な…(泣)」

茶色いちゃぶ台の上で、白い学生服を着た海馬型の貯金箱は、腰に手をあて仁王立ちし、「ワハハ」の顔をしている

振ってみるとジャランジャランと音がした

貯金したものは不思議と消えていないようだった

「海馬ー…こんなトコまで現れんなよな…(泣)」
「………」
「…って貯金箱に言ってもな」

なんだか疲れてしまった。
とりあえず今月はバイト代が入ったばかりなので、奮発して海馬の頭頂部に千円札を入れ、眠りについた


…朝が来てもやはり夢では無かった
海馬の貯金箱は昨晩のままだった
「…ぅす」
俺も寝ぼけているのか、なぜか海馬に話しかける
「ふぅん」

!?

しゃべった?

一気に目が覚めてしまった

「か、海馬?」
「ふぅん」
しゃべんのかよ!?
「ふぅん」
なんでだ?
昨日寝るまでしゃべらなかったのに…?

ずっと疑問を抱えたまま学校へ行く支度をして玄関に向かう

「…じゃ、ガッコ行ってくる」
「ふぅん」
あれしかしゃべらないのかな…


学校では遊戯たちになんて伝えていいか分からず、結局貯金箱の事は言わずじまいだった

「よー、ただいま」
自然に話しかける俺って…(泣)
「ふぅん」
…やっぱこれだけか
ははっちょっと期待したぜ、もっと高性能かと思ったけど
まあこういうオモチャってあるしな
10円や50円をチャリンチャリンと入れ、夕方のバイトに向かった

「よー!ボーナスだ!」

色々なバイト先が給料日なので、また奮発して1000円札を入れてあげた

「けっこーたまってきたんじゃねーか?」
ガシャガシャと音と重さを確認し、ワクワクしていた
「ワハハハハハー」
「うおっ!」
またコイツか!
「ワハハハハハー」
…違う事も喋るのか
…えっなんでだ?
さっき金入れるまで喋らなかったのに…
あ!

ひょっとして…?

「金が増えるにつれて、喋る言葉が増えるとか…か?オマエ…」
「ふぅん」
「なんっつーゲンキンな奴だ!」

…だが、ちょっとだけ他にどんな事を喋るか気になってきてしまった

「ちょっとだけだかんな…」

100円玉を、1枚、2枚と入れていく…
「海馬?」
「ワハハハハハー」
5枚、6枚…
「オイ?」
「ふぅんワハハハハハー」
「チッ、ゲーセン代に取っておいたんだぞチクショー」
チャリン、チャリン…

………

「…なんか言えよ」

「ぼんこつ」

!!

俺の事か!??

「オイ…!」
「ぼんこつ」

俺は急に、この海馬の貯金箱が愛おしくなってきてしまった

この貯金箱は、なぜか海馬本人の声なのだ
今こんな間近でたとえ「凡骨」呼ばわりでも呼ばれて嬉しいのに

本物にも一度も呼ばれた事が無い

名前を

「克也」と

まさか

呼んでくれるのだろうか…?


俺は本気で財布の中の金を探し始めた

千円札を一枚入れると
「くだらん」
としゃべった
千円で一つ言葉を覚えるのだろうか?

俺は夢中になって海馬の貯金箱に千円札ばかりを詰め込んでいた

財布が段々と軽くなっていく事など気づかずに


…そして
20000円位は入れてしまっただろうかという頃

海馬はほぼ会話が出来るようになり

…なんと、動いたのだ

…もはやなにが起きても驚かないぜ…

「フン、肩がこったわ」
海馬はあぐらをかいて肩を回してる
「お前…動くのかよ」
「ウルサイ」
「オイ、体の中ってどーなってんだ?」
「ダマレ、凡骨」
海馬がちゃぶ台の上から逃げようとしたから、捕まえた
「ハナセ!」
俺の手の中でわたわたともがく海馬は、どこかロボットのようだが、それにしては動きがなめらかすぎる

大人しくなったのでまたちゃぶ台に乗せると
部屋を見回して
「まるで犬小屋だな」
「うっせーよ」
言うことは本人と同じか

あーあなんでバイト代入れまくっちまったんだあ〜?
なんか損した気がしてきた

もういーや、寝るか
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