それでは誘惑の準備を
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光る銀色からポタリポタリと落ちるのは、綺麗な赤。
「…………」
男は落ちる赤など気にはせず、ゆっくりとした動作でタバコに火をつけ。
自身の足下に横たわったそれに、熱を持ったタバコの先を押し付けた。
「……………………迷った」
ここ、警視庁にはそぐわない、私服姿のどこからどう見ても十代と思われる少女は、そう言って綺麗に整った顔を曇らせ、ため息をついた。
長い黒髪に整った容姿、そして銀の瞳。
こんな人物が困った表情で歩いていれば、誰かが声をかけるだろうが―いかんせん、少女の歩く道には、後にも先にも人影一つなかった。
「………」
さてどうするかと立ち止まる少女。
とその目に、中途半端に開いた扉がとまる。
それを見て少し考えたあと、少女はゆっくりとそちらへ向かって行った。
「…すみません、」
声をかけながら扉の中へと入れば、ソファーに横になり、毛布を被る人物が目に入る。
「(寝ている、のか…?)」
起こさないようにと注意しながら、そっとそちらへ近寄る少女。
と、次の瞬間。
毛布の中からいきなり伸びてきた腕によって、少女はベッドへと倒れこんだ。
「っ……、………っ!?」
突然のことに驚き思わず目をつぶった少女は、次に目を開いた時、男に腕を押さえられ、馬乗りになられていた。
「――誰だ…ここで何してる?」
糖蜜色の髪に、同じ色をした瞳。
幼い顔立ちのわりに雰囲気はどこか妖艶で、今はそれが鋭いプレッシャーとなって少女に突き刺さる。
近くにある顔は思わず見惚れてしまうほどに―そして女性でなくとも顔を赤らめてしまうほど―整っていたが、しかしこの状況ではそれも凄みを増す材料の一つでしかなく、寧ろ逆に顔を青ざめさせるだろう。
――まあ、少女の反応はそのどちらでもなかったのだが。
「……楸、千鶴…だが」
「……ヒサギチヅル…?」
そして二人は、思わず無言で見つめあった。
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出逢い、で愛
(すべては)(ここから始まった)