それでは誘惑の準備を

□01
1ページ/1ページ







光る銀色からポタリポタリと落ちるのは、綺麗な赤。



「…………」



男は落ちる赤など気にはせず、ゆっくりとした動作でタバコに火をつけ。

自身の足下に横たわったそれに、熱を持ったタバコの先を押し付けた。











「……………………迷った」



ここ、警視庁にはそぐわない、私服姿のどこからどう見ても十代と思われる少女は、そう言って綺麗に整った顔を曇らせ、ため息をついた。


長い黒髪に整った容姿、そして銀の瞳。

こんな人物が困った表情で歩いていれば、誰かが声をかけるだろうが―いかんせん、少女の歩く道には、後にも先にも人影一つなかった。



「………」



さてどうするかと立ち止まる少女。

とその目に、中途半端に開いた扉がとまる。

それを見て少し考えたあと、少女はゆっくりとそちらへ向かって行った。



「…すみません、」



声をかけながら扉の中へと入れば、ソファーに横になり、毛布を被る人物が目に入る。



「(寝ている、のか…?)」



起こさないようにと注意しながら、そっとそちらへ近寄る少女。

と、次の瞬間。

毛布の中からいきなり伸びてきた腕によって、少女はベッドへと倒れこんだ。



「っ……、………っ!?」



突然のことに驚き思わず目をつぶった少女は、次に目を開いた時、男に腕を押さえられ、馬乗りになられていた。



「――誰だ…ここで何してる?」



糖蜜色の髪に、同じ色をした瞳。

幼い顔立ちのわりに雰囲気はどこか妖艶で、今はそれが鋭いプレッシャーとなって少女に突き刺さる。

近くにある顔は思わず見惚れてしまうほどに―そして女性でなくとも顔を赤らめてしまうほど―整っていたが、しかしこの状況ではそれも凄みを増す材料の一つでしかなく、寧ろ逆に顔を青ざめさせるだろう。


――まあ、少女の反応はそのどちらでもなかったのだが。



「……楸、千鶴…だが」



「……ヒサギチヅル…?」



そして二人は、思わず無言で見つめあった。






01
出逢い、で愛


(すべては)(ここから始まった)




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ