それでは誘惑の準備を
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「――『特別犯罪捜査課007』ができて、さっそく同一犯によるものと思われる殺人が5件も起きてる。犯人に通じる手掛かりが一切つかめないこの状況でぐーすか寝てやがるその神経も信じらんねー………が、
それより!」
バンッ!と机を叩き、下から見上げるように綱吉を睨み付ける課長は――最早刑事というよりそっちの道の人間である。
その出で立ちが黒いスーツということも相まって、まるでどこぞのマフィアの幹部のようだ。
「俺の命令を無視した挙げ句職場に女連れ込むとはどういうことだ!?」
しかしそんな彼の殺気混じりの視線を受けても、一方の綱吉は全く気にした素振りを見せない。
どころかやれやれと肩をすくめる始末。
「俺は知りません。勝手に入って来たんだよ」
「勝手に入ってきた奴を押し倒すのかこのダメツナが」
「リボーンはしそうだよね」
ボソリ、低い声で呟かれた嫌みに、綱吉は笑顔でそう返す。
ああやっぱりこうなったと、側に立つ山本は苦笑いだ。
「ここではてめえの上司なんだよ敬語くらい使えねーのかダメツナ!」
「まーまー課長落ち着いて。ほら、寝ぼけてたんだろ?」
これ以上になれば発泡事件―なまじっか彼らには銃の常時携帯が許可されているため冗談ではすまされない―が起きてしまいそうなため、あわてて間に入る山本。
「うん、そーなんだよさっすが山本」
「ははっ」
うんうん、と頷く綱吉はやっぱり飄々としたままで、山本は思わず笑い声をあげた。
とそこで、ちょいちょい、と引かれる山本と綱吉のスーツの裾。それに振り返れば、それまで黙っていた少女が彼らを見つめていた。
そんな彼女に、ニカリ、得意の笑みを浮かべて話しかける山本。
「ん?どした?」
「…楸研究所から来ました。楸千鶴です」
………は?
三人の心境を表すとすれば、これが一番当てはまるだろう。
話を知らない綱吉からすれば「何言ってんだこいつ」だし、話を知っている山本と課長―もといリボーンにしても別の意味での「何言ってんだこいつ」状態。
「………てめえが、か?」
「ええ」
いち早く口を開いたのは、やはりというかなんというか、リボーンで。
その問いに千鶴が頷けば、困惑した表情の山本がそのあとに続く。
「で、でも、どう見ても学生なのなー」
「歳は18ですが、学校には行っていません」
「はい!はい!はーい!」
とそこで、部屋の中に成人男性三人の声が揃って響き渡る。
それまで部屋にいたものの我関せずと―いやまあ実際には千鶴を見ていた訳だが―仕事をしつつ、しかし確りと彼らの話を聞いていた男三人。
彼らが素晴らしい速さでもって、千鶴の前へとやってくる。
「一条です!!」
「二階堂です!!」
「三雲です!!」
「てめえら……」
その反応のあまりの良さに、思わず額に青筋たてて銃に手を伸ばすリボーン。
しかしそれを、先ほどまでその銃口の標的となっていた男が止める。
「まあまあ、リボーン。ストップストップ」
そしてクルリ、千鶴へと振り返り。
「っていうか、さ。いくらここが特殊な課だって言っても……君みたいな若い女の子をおくのはちょっと、ね」
そう言って苦笑した綱吉に、千鶴は一度うつむいて。
そして今度は、涙混じりの顔で上目遣いに綱吉を見つめた。
「………ダメ、ですか…?」
「…う゛…」
「そいつがお前の相棒だゾ」
「ちょ、おいリボーン!」
千鶴の表情に罪悪感が芽生えたのか、綱吉が思わず口ごもった隙にサラリとそう言ったリボーン。
それにそんな話聞いてないとばかりに綱吉は食って掛かる。
「今朝お前が俺の所に来れば伝えるはずだったことだゾ。ちゃんと面倒見てやれ」
「ふざけんな」
「てめえ…さっきから上司に向かって良い度胸じゃねえか」
「俺に子守りしろって?大体俺は誰かと組むのは性に合わな…」
「うるせぇ上司命令だ」
コツリ、言葉と同時に額に押し付けられる銃口。
「……、」
そして綱吉が言葉を発しようとしたその時、それを遮るように山本声が響いた。
「課長!これまでの5件と同一犯だと思われる死体がまた出たそうッス!」
03
コンビ結成
(私も行きます)(…勝手にしろ)