それでは誘惑の準備を
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「――なあ、あれ誰だ?」
KEEP OUTの文字が書かれた黄色いテープ。
その内側では警察官達が、外側では野次馬が騒がしく動いていた。
そんな中、一人の鑑識の一人が同僚に話しかける。
「え?……ああ、元・捜査一課の沢田さんだよ。今は特犯課007に配属されたんじゃなかったっけ」
話題に上がるのは、つい先ほど現場にやって来た三人の人間のうちの一人。
「特犯課007!?
特犯課007ってあの問題のある人間の集まりの!?」
「――まあ、そう言われることも多いけど…沢田さん優秀だよ。
確か上司とモメタんじゃないかな…それで移動」
「うっわ〜…顔がよくて優秀!?イヤミだ…」
彼の言う通り多少童顔ながらも容姿の整っている綱吉。
その上彼の隣に並ぶ山本も、タイプは違えど容姿が整っていることに違いはなく、そのため彼らはこの現場にやって来た時から目立っていた。
「ん?」
とそこで、彼らの隣に立つ、これまた嫌みなほど容姿の整った少女に目線が移る。
「…じゃああの娘は…?」
「…さあ…」
「すみませーん、特犯課007の者ッスけど。被害者の遺体はどこに…」
彼らがこの場に似つかわしくない少女に首を傾げていると、山本がやって来てそう尋ねてきた。
「あそこです」
「どうも」
それに遺体を示せば、ニカリ、山本はまぶしいほどの爽やか笑顔で礼を言った。
「……沢田さん」
「名前で良いよ、綱吉で。敬語もいらない」
「でも……」
「いつまでも良い子ぶるの疲れるだろ?俺もリボーンも……山本も気付いてる」
「……!」
何でもないことのようにごく自然に発せられた言葉に、目を見開く千鶴。
綱吉の言う通り、確かに千鶴は彼らに対し外面で接していた。
それはもはや癖みたいなもので、それが出会って数十分程度で気付かれるとは思わなかったのだ。
――しかも、三人もの人間に。
「それにこっちも、見え見えの猫被り見続けるのしんどいしさ」
そして続けられた歯に衣着せぬ言いように、その隣で山本が苦笑う。
しかし綱吉の言葉を否定しようとしないということは、言葉は違えど思っていることは同じなのだろう。
「で?何」
「…………“007”の意味はなんだ?課の人数か何かか?」
彼らの態度にため息一つついたあと、言う通り素で尋ねた千鶴。
それに予想していたためか、綱吉は驚くことも態度を変えることもせず、どこかめんどくさそうにゆるゆると首を振った。
「あー、違う違う。理由は『警視総監が007のファンだから』」
「……………は?」
「あはは、笑うよなー」
その余りにも予想外すぎる言葉に、千鶴は思わず間抜けな声を上げて固まって、その隣ではケラケラと山本が笑う。
「いや…何て言うか………それで良いのか?」
「いんじゃない?犯人さえちゃんと捕まえれば、さ」
頭が痛い、とばかりに眉間を揉みながら千鶴が問えば、綱吉から返って来たのはそんななんとも軽い、しかし確かにそうだと言える一言。
それにとりあえずこの話は流そうと、千鶴は咳払いを一つして話を変えた。
「…なら今回の一連の事件とは?詳しいことは何も聞いていないんだが」
「被害者は10代後半から20代前半の女。髪が長く服装は派手、死因は腹部を10数ヶ所刺されたことによる失血性ショック死」
カツカツと音をたてて歩きながら、淡々と説明を始める綱吉。
「死語左頬にタバコによる火傷の跡が見られる――以上の共通点から同一人物の犯行の可能性が高い」
それを聞きながら千鶴も当たり前のように彼らのあとをついていき、そして死体の前で止まりしゃがみこむ。
「…………」
「…………」
「……なんだ?」
とそこで、自身に集まる自然に怪訝そうな表情をして首を傾げる千鶴。
そんな千鶴に綱吉は呆れたような表情で「…いや、」と呟き。
「お前見る気?死体」
「見るが?」
「おいおいやめとけって、子供の見るもんじゃねーからさ」
当たり前のように答えた千鶴に、苦笑しながらそう言う山本。
しかしそれに、彼女はますます訳が分からない、という表情をして。
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