それでは誘惑の準備を
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「!」
「いた?」
東二葉高校。
放課後を告げるチャイムが鳴り響き、少しした頃。
ぞろぞろと出てきた高校生たちの姿を、校門の影から見つめる二人の人物がいた。
もちろん、沢田綱吉と楸千鶴である。
死体現場を見た翌日、宣言通り彼らは二人で千鶴の視た人物を探し出すためにやって来たのだ。
そんな中、千鶴が一人の人物を見て声をあげる。
そして綱吉の問いに、彼から目を離さないまま頷いて。
「ああ…アイツだ。背格好も似ているし…」
「確かに火傷の跡もあるな」
千鶴の隣からひょいと顔を出し、彼女の視線の先を追った綱吉がそう言葉を続ける。
そしてまるでよくやったとでも言うかのように千鶴の頭をぽんぽん、と軽く叩き。
「とりあえずつけるよ」
「ああ」
そうして、彼らの尾行が始まった。
「あ、」
しばしの尾行の後、二人の目の前で若い女性に声をかけられたら青年は、その女性の肩を抱いてとある廃ビルの中へと入って行った。
「……どうするんだ?」
困惑気味に聞いてくる千鶴に、綱吉はため息1つついて。
「山本に連絡してくる。そこにいて絶対動くなよ」
「……」
返事をしない千鶴に、にっこり笑った顔を近づけもう一度。
「動くなよ?」
「……ああ」
その有無を言わせない雰囲気に、千鶴がしぶしぶながらも頷いたことを確認したあと、綱吉はその場をあとにした。
そしてその数秒後。
容疑者である青年達が入っていった廃ビルの中から聞こえてきた、何かが割れる音。
「っ……」
思わずそちらに動きそうになるも、しかし千鶴の頭によぎる、綱吉の言葉。
それによって一瞬動きを止めるも、しかし続いて聞こえてきた女性の悲鳴に、千鶴は躊躇うことなく廃ビルの中へと走った。
「――何をしている!」
中へと入った千鶴が目にしたのは、女性に馬乗りになり、今にも振り上げたナイフをその体に下ろそうとしている青年の姿で。
とにかくその意識をこちらに向けようと、千鶴は声の限りに怒鳴りつけた。
「!?」
突如響いた千鶴の声に、ばっとこちらを振り向く青年。
「その人を放せ」
「な、なんだお前…!」
突然の思わぬ侵入者に動揺している男は、千鶴の真っ直ぐに見てくる瞳にますます動揺の色を濃くする。
一方千鶴の登場により希望を感じたのか、被害者である女性が声をあげる。
「助けてっ!!」
「うるさい!!」
その声に反応し、ナイフを振り下ろそうとする青年。
それをとっさにその腕に抱きつく形で千鶴が邪魔をし、その隙に逃げていく女性。
「っこ…の!邪魔すんな!」
まるで逃げた女性の代わりにするかのように、激情した青年は千鶴の胸ぐらを掴んで押さえつけ、ナイフを振り上げた――所で響く、発砲音。
そしてそれと同時に青年の手から弾き飛ばされるナイフ。
「動くな。特犯課007だ」
声の方に千鶴と青年が同時にそちらを見れば――そこにいたのは、右手に拳銃を構えた綱吉だった。
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