それでは誘惑の準備を
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「…………誰も、いない?」
警視庁に派遣されて三日目の朝。
楸千鶴が仕事場に行けば、しかしそこには誰の姿もなかった。
とそこで、微かに開いている扉を発見し、少しの間考える千鶴。
しかし直ぐにこのままここにいても仕方がないと考え、扉の方へと向かい――
「まったく…」
そこには、ソファーに横たわり目を閉じる相棒――沢田綱吉の姿があった。
その姿に、初対面の時を思い出す千鶴。
彼は初対面のあの時も、こうしてソファーで気持ち良さげに寝ていたのだ。
そしてそれを見つかった上司に怒鳴られ――とそこまで思い出した所で、ため息一つつき、千鶴は彼を起こそうと近寄った。
いつ寝たかは知らないが、こんなにも気持ちよさそうに眠る綱吉を起こすのは気が引けるのだが…どうせリボーンに叩き起こされるのだ、それなら今起こしておいた方がいいだろう。
「綱吉、起きろ。おい?」
「ん…?」
綱吉の肩を掴み、ユサユサと揺らす。
すると綱吉は、ボーっとした、未だ明らかに半分以上夢の世界にいる目で見上げてきて。
「ほら、起き……っ!」
そして次の瞬間、千鶴はまたしても腕を引っ張られた。
―まるで、初対面の時のように。
「………」
「………」
二人がかりで持ってきた、彼らの身長より大きなそれ。
白い布がかけられた縦長のそれを部屋の外に立てかけ、じっと見つめるリボーンと山本。
「なあ部長?」
「…………何だ」
「これ………なんすかね」
興味津々といった表情で尋ねた山本に、一方苦虫を噛み潰したような表情でそれを見ていたリボーンが答えて。
「……布を取ってみろ」
バサリと取った布の下から出てきたのは、ヒノキの一枚板に達筆で書かれた、“特別犯罪操作課007”の文字。
「………」
「………」
しばしそれを無言で見つめる二人。
そして。
「すげーな!」
「それを本気で言えるお前がすげえよ」
ニカリ、爽やかな笑顔で言い放った山本に、リボーンは心の底からこの部下の感性が理解できなかった。
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