幸せ家族計画

□け
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「聞いてよ亮兄ッ!!」



バタン、物凄い音をたてて開いた扉とそしてそこから入ってきた弟に、亮は明日提出の宿題を続けることを諦めた。











「でさ、獄寺くんてばそこでずてーんって勢いよく転んじゃってさ、もう俺可笑しくて可笑しくて!でもそんなおおっぴらに笑えないじゃん?で、俺が必死に我慢してるのにその横でさあ、笑うんだよ山本が!思いっきり!もう俺笑い堪えんの限界でさあ…ってちょっと亮兄聞いてる?」



「あー、はいはい聞いてる聞いてる」



綱吉が兄である亮の部屋に来てから早三時間。

その間彼はほぼノンストップで話し続けていた。

夕食もとうにすませており、亮もあまり口を出そうとはしないため彼の言葉を止めるものはなかった。

その内容は学校のことやら家族のことやら、道端で出会った猫のことまで様々だが――しかしただ一人、不自然なほどにその名前も、気配すらも出てこない人物がいた。



「(ったく、相変わらずだな…)」



おそらくその事には気づいていないだろう弟に、亮は心の中で苦笑する。

―昔からこうなのだ。

この弟は、あいつ――ザンザスと喧嘩をした時にだけ、兄弟や両親にこうして何か溜まりに溜まったものが爆発したかのように、日常の出来事を話しにくる。

もちろん他の家族たちもそうだが、亮はその中でも頼られる頻度が一番高かった。

やはり歳が近く同じ男だからだろうか。

両親に甘えるような年齢ではないし、リョーマは年下であり兄として頼ろうとはしない。

景はあれでも一応姉であるから、やはり甘えるには少し恥ずかしいものがあるだろうから。


そんな亮は、それゆえにその対処方法も熟知している。

ようは全て吐き出させれば良いのだ。

吐き出して吐き出して吐き出して――そして疲れて眠ってしまえば、次の日には綱吉は自分で解決することができる。

吐き出してしまえば、綱吉は自分の中で気持ちの整理をすることができるのだ。


だから亮たち家族は、ただそんな綱吉を見守り―暖かく包んでやれば良い。

その、甘えることや弱みを見せることを苦手とする綱吉の、綱吉なりの甘え方を。



「(…にしても、喧嘩した相手に対する愚痴やらけなしの言葉がない、ってのも笑えるけどな)」



それもまた、綱吉の綱吉らしい所なのだろう。










「う゛お゛ぉい……飯くらい食ったらどうだぁ…」



「うるせえカス鮫」



広いとはいえ一般的な家庭の一室だった雲雀家長男の部屋に対し、いかにもお金持ちらしい広く、そしてセンスの良い―その上質も良いだろう―必要最低限の家具でまとめられた部屋。
その真ん中でいつも以上に眉間にシワを寄せている部屋の主に声をかければ、暴言とともに花瓶が飛んできて。

それをヒョイと―悲しいことに慣れてしまった―彼は避け、こっそりとため息をつく。



「(ったく、またかあ゛…)」



花瓶を投げた張本人、ザンザスの通う中学の教師兼ザンザスのイトコでもあるスクアーロは、ザンザスの機嫌の悪い理由を知っていた。

そしてそれが、明日になれば解決することも。



「(綱吉の奴、次の日には必ずザンザスに謝りに行くからな゛あ゛…)」



そう、ザンザスの機嫌が悪い原因である友人、綱吉は、なぜかは知らないがいつも喧嘩の翌日には彼の側へ行く。

そしてザンザスも、それによって自分の非を認めるのである。

あのザンザスが、だ。



「(いつ見ても不思議だぜえ)」



普段から手酷い扱いを受けているスクアーロからすれば、全く持って信じられない話である。

まあとにもかくにも、だから別に、心配する必要はないのだけれど。

だけどその機嫌が悪い日のザンザスの身の回りの世話は、なぜかスクアーロがしなければならないのであり、彼からすればそれが問題だ。

…まあ、今の状態の彼にメイド達を近づけるわけにはいかないのは分かっているが。


明日までの苦労。

それを思い思わず深いため息をついたスクアーロに――鬱陶しいとばかりに、今度はグラスが飛んできた。





喧嘩のとばっちりは勘弁してくれ!

(散々周りに迷惑かけた挙げ句次の日には仲直り、なんて)(痴話喧嘩したバカップルかお前ら!)


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