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□求
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 見つけた



【求】



「ねぇ、どうして喧嘩なんてすんの?」


 そう聞いてきたのは、夕日色の髪を持った男だった。
 そいつは私の顔についていたらしい返り血を、なんの躊躇いもなく素手で拭って笑う。


「こんな汚い血まで浴びて……何がしたいの?」


 アンタには似合わないと思うけど、と言って自分の手に付いた血を舐めとった。それはまるで恋人の口元から拭った食べかすを食べてしまうように、楽しそうに。
 汚いと思うならなぜ舐める。
 そしてお前は誰だ。私たちは初対面のはずだが。


「……ね、なんで?」


 答えようとしない私に仮面のような笑顔を向けて、答えを急かす。
 なんで私が、こいつの質問に答えなければならないんだ。
 私が何をしようとこいつには関係ない。


「……てめぇ誰だ」

「質問してるのは俺様なんだけど」

「知りもしねぇ野郎の質問に答えると思うか」

「うん」


 なんてお気楽な奴。
 そのくせ笑顔を張り付けてるわりには目は欠片も笑っていない。
 暗い暗い、光なんて入らない瞳に私の顔が見える。
 不機嫌そうに見えるのはいつもだ。生まれた時からこんな顔だった。


「アンタを縛りつけてるのは、一体、何?」


 見上げていた顔を下げる。視界に映る私の足と、こいつの足。だが私はそれを見てはいない。

 脳裏をよぎるのは、血生臭い焼け野原。煙が立ち上るそこに散らばるかつて人だった屍肉たち。
 私が消してきたたくさんの命。
 その真ん中に私は立っている。
 やっぱり、血を浴びて。

 何度同じ夢を見たことだろう。
 初めて見た時には吐き気が止まらなかった。
 赤赤赤赤、アカ。
 全てを染める燃えるような赤。

 私は、


「……赤」

「ん?」

「私は……赤が、欲しい」


 ゆっくりと私を侵食していく、夢。
 あの夢の私は私じゃないのに。気付けば、夢が私を支配していく……。

 私は誰だ。
 あの夢の私は、誰だ。

 いくら考えてもわからないから、赤を求める。


「きっと、赤は、私だから」


 がんじがらめになる。
 あの夢に、赤に、縛られる。


《思い出せ》


 まるでそう言われているようで。でも何を忘れているのかがわからない。

 私は、ナンダ。


「そうだね……アンタは紅だ」


 耳元で聞こえた低い声が脳に染み渡る。囁くように流しこまれる言葉はまるで麻薬。
 思考が止まる。
 こいつの声だけが色を持っていた。


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