short book
□成り下がった宝
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『……元就』
我を呼ぶその声が、至高の宝だった。
人などただの駒に過ぎない。そう思う我が唯一"ヒト"として見ていた者。
気弱な態度が始めは苛立たしかったというのに、我にすがる瞳から目を反らせなかった。
我を見つければ名を呼び、背に張り付いてきた自分より少し低い場所にある白い髪が…好きだった。
「おい元就!」
「………」
「おい、元就!? 聞こえてねぇのかよ!」
「………」
「おい!」
「うるさい! 我の名を呼ぶな近付くな目障りだ、この能無しが!」
「あ? 何キレてんだよ、お前」
しつこく声をかけてくる馬鹿を睨み付ける。
唯一、宝だと思っていた存在は本当に気付かぬ間に筋肉ダルマへと成り下がってしまった。
あの我より小さく華奢だった姿はどこに行ったのか。あの弱々しかった声は何故こんな声に変わってしまったのか。
「何怒ってんだよ? 元就」
「我に近寄るなと言っておるだろう! この……っ」
終
「……あの2人、ま〜たやってるよ」
「俺たちもやるぞ! 佐助!」
「イヤだよ!」
2009/5/12 狐榎