short book

□例えば君がいなかったなら
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「なぁ、右目の兄さん」

「あ?」

「もしも独眼竜がいなかったら、アンタは俺のもんになってたのかねぇ?」







【例えば君がいなかったなら】







何を言っているんだ、この鬼は。
馬鹿な野郎だとは思っていたが、とうとう末期か?

急に城を訪ねてきた鬼を横目に、畑を弄る手は止めない。
あぁ、最近雨が少ねぇな。


「なぁ、どう思う?」

「馬鹿か。んな話してなんになる」

「ちょっとした与太話じゃねえか、付き合ってくれよ」

「………はぁ」


カジキを手土産に持って来たもんだから政宗様が城に入れてしまったが、今からでも追い出してしまおうか。
どうせ西の太陽に頭丸焼きにされたんだろう。
こんなのを政宗様の近くにいさせたくねぇ。


「さっさと国へ帰ったらどうだ」

「明後日にはけーるさ」

「今帰れ」

「やだね」


眉間の皺を深くして、大きく舌を打っても鬼は馬鹿みてぇに笑うばかり。
苛々する。


「なぁ、答えてくれよ。そしたら明日には帰ってやるさ」


片方しかない目を見て、手を止める。
体の向きを変えて口を開いた。
答えは初めから決まっている。


「政宗様がいらっしゃらねぇ世界に、俺がいるはずねぇだろ。馬鹿が」


それだけだ。
目を大きく見開く鬼を鼻で笑って、土に目を戻した。


明日は雨が降りそうだ。


END
2009/7/3 夜鷹


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