short book

□だから嫌いなんだ
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そいつはいつも突然やってくる。



【だから嫌いなんだ】



過ぎるほどに照る太陽を目を細めて仰ぎながら、首筋を流れる汗を拭った。
昨日の大雨が嘘のようだ。
少し口元を緩ませて畑に向かう。少しばかり強すぎた雨の影響があっては堪らない。


「右目のだーんな」


歩き出した途端、後ろから聞こえたちゃらけた声に足を止めた。
眉間に皺が寄るのを感じながら振り向けば、そこには忍ぶ気がさらさらない忍。
へらへらと貼り付けられた笑顔は不快にしか感じない。


「何の用だ」

「え〜、わかってるくせに」


聞かないでよー、なんて言いながら近付いてくる猿飛にわざとらしく溜め息を吐いた。
ここ最近、猿飛はよく俺を訪ねてくる。その目当てはいつも同じだ。


「俺様今日は胡瓜欲しいなー」

「……好きにしろ」

「あは」


どうせ突っぱねたところで引き下がりはしないのだ。もう何度となく繰り返したやりとりを思い出し、まだ何もしていないのに疲れた。



背後に気配を感じつつ、畑の胡瓜を数本籠に入れていく。
他にも色々と入れておいた。
……ついでだ、ついで。
胡瓜だけなんてけちくせぇこと言うかよ。


「右目の旦那の野菜、美味しいんだよねー」

「そうかよ」


振り返らずに返事だけすれば、くすくすと笑う声が聞こえた。
また眉間に力が篭る。
本当に嫌になるのだ、こいつといると。
全てわかったような態度も、わかっていながら知らないような口ぶりも、全てが俺の神経を逆撫でする。


「ねぇ、旦那」

「なんだ」

「この野菜ってさ、旦那の愛情がたーっぷり詰まってんでしょ?」

「当たりめぇだ」


だからなんだ。
何が言いたいのかがわからず地面を弄る手が一瞬止まる。
だがそれがまた気に食わず意味もなく手を土に突っ込んだ。


「だから俺様、片倉さんの野菜食べんの好きなんだよねー」

「……あ?」


今度こそ完璧に手が止まる。
身体全ての動きが止まり、思考ばかりが空回りする。
どういう意味だ、それは。
するりと右肩に何かが触れた。それでも動くことが出来ない俺はとうに死んでいても不思議はない。


「だって、なんか片倉さんの愛を食べてるみたいでさ…」


左側に感じる熱に、無意識に土を握りしめる。耳元で囁かれる声をやり過ごすのに全神経を集中する自分にまた腹が立つ。
またこの猿は普段は『右目の旦那』と呼ぶくせに、時折ふと呼び方を変えやがる。

なんなんだ、こいつは。


「ね、片倉さん」

「……っなんだ」

「また野菜、貰いに来ていい?」


それこそ、答えなど聞かなくともわかっているだろうに。


どうせ俺は首を横には振れないのだ。











【だから嫌いなんだ】











(振り回されるとわかっちまう)

END
2009/7/26 夜鷹
小十←佐じゃないよ小十→佐だよ!
自分でも何がしたいのかわからなくなったけど、俺はこういう小十佐が好きです。
小十郎がニセ?ここには片倉小十郎景綱なんていないよ!


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