☆跡部王国☆

夏恋想
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〜夏恋想〜

不思議な夢を…見る…。

…海が広がる風景。
砂浜に佇む男の子…………。

その男の子をいつも遠くから見ていた。

…そのうちに、そんな彼に恋をした…。

(夢の中の人…叶わぬ恋なら、せめて、今だけでも見ていたい…)

そして、彼の姿が緩やかに消えていく…。

そこで、いつも目を覚ます…。

『また、同じ夢?』

何度も何度も繰り返えされる夢…。

『彼は、一体、誰なんだろう』

(話し掛けようとしても、私の声は彼に届かない…。)

ふと、気になりだしたら、無償に会いたくなる…。

『また、今夜も会えるかな。』

(会いたい……な)

そんな事を思いつつ、一日が過ぎ、そしてまた、眠りの時間が近付く…。

(不思議な出来事だけど、この状況をちょっと楽しんでるかもしれない…。)

そして、今日もまた同じ夢の中……。

…でも、今日はいつもと、少し違う感じがした。

誰もいない砂浜に、自分が立っている。

『今日はいないんだ…彼…』

ボソッと呟く。
しばらく、砂浜を歩いていると、ふと、背後から声が聞こえた。

『危ねー!』
『えっ』

その瞬間、大きな波が私を飲み込んだ。

『きゃ〜』

波が引き終えると、ずぶ濡れの姿の私が現れた。

『悪り、遅かったか』
『な、なんで〜』

いつも見つめていた彼が、目の前に現れた。

(会えた…こんな近くで)
ふと、何か気付いたように、視線を自分に戻した。
ずぶ濡れの自分の姿を見てガックリした。

(こんなビショビショで彼に合うなんて、最悪…)

そんな私の目の前に、シャツが差し出された。

『ほら』
『えっ?』
『…何してるんだ、着てろ』
『でも、濡れちゃうし、悪いからいいよ』
『今のお前のカッコじゃ、まずいだろ』
『えっ』

水で濡れた洋服が、体にピッタリ張り付き、下着が透けて見えていた。

『きゃ』
『だから着てろ』

彼は、こちらを見ないように、さりげなく後ろを向き、シャツを渡してくれた。

『…あ、ありがとう』

シャツを羽織り、そう声をかけた瞬間、彼が私の腕を掴み走り出した。

『おい、逃げるぜ!』
『えっ、なんで?』
『後ろ、見てみろ』

走りながら、恐る恐る後ろを振り返ると、何とも言えない形のモンスターが追い掛けてくる。

『何、あれ〜』
『俺が知るかよ』
『うそ〜』
『いいから、逃げるぞ』
『あっ、うん』

どのくらい、モンスターから、逃げ回ったのだろう…、遠方の丘の上にある城が目に入ってきた。

『あそこに逃げ込むぜ』
『うん』

2人は、丘の上にある城の前まで逃げてきた。
しかし、城の扉が頑丈で、なかなか開かない。

『くっそ、なんで、開かねーんだ』
『古いからかな、あっこれ、あっ、もう早く開いて!』

『よし』
『開いた?!』
『急げ!』
『うん』

重たい扉を何とか開け、2人は城の中へ駆け込む。
モンスターが、扉に近づく寸前で扉を閉じる事が出来た。
中から、モンスターが入れないように鍵をかける。

『はぁ〜助かった』
『危機一髪だったな』
『でも、鍵かけただけで、大丈夫なのかな』
『ん…まぁ、時間稼ぎにはなるだろう』
『よし、とりあえず、中に行くぞ』
『えっ、うん』

2人は城の中を歩き進んで行く…。
古い城で、なんとも言えない感じ…。
長く続く通路の脇には、ろうそくが灯り、鎧人形がずらりと並んでいる。
その中を進んで行った。

『なんか、怖い』
『…じゃ、俺のところ捕まってろ』
『ありがとう』

ガシャと言う音と共に、脇に並んでいた、鎧人形の一体動き出した。

『えっ、動いてる?』
『…』

鎧人形が、こちらに向かってくる。

『うそ、こっちに来る』
『ち、なんだよ、これ』

彼は、鎧人形から私を庇うように前に立った。

『えっ』
『大丈夫だ、心配するな。お前は、この俺様が守ってやるから』
『…』

(…こんな時に不謹慎だけど、私だけの騎士みたい…)

彼は、脇の鎧人形の一体から、剣を取り上げ構えた。
鎧人形がゆっくり近づいて来て、剣を私達に向かって振り下ろした。
彼はその振り下ろされる剣をぎりぎりで止め応戦している。

『ちっ、ばか力が…』

剣同士が交じり合う音が辺りに響いていた。

『俺のそばから離れるなよ』
『う、うん』

私を庇いながら、鎧人形に立ち向かっていた。
彼は、鎧人形の不意を突き、剣を振り上げ一直線に頭から鎧人形を切りつけた。
その直後、床に鎧がばらばらに崩れ落ちる。

『ったく、しぶとい奴だぜ』
『…大丈夫か』
『うん、ありがとう』

2人が、ふと油断した隙に、他の鎧人形が動き出し、私達に向かって来た。

『きりがねーな、これじゃ』
『どうしよう…』

何かないかと辺りを見回した時、通路の横に扉を見つけた。
その扉に駆け寄り、扉が開くか確かめた。

『あっ、開いた』
『ね、こっち』
『分かった、今行く』

鎧人形と戦っている彼に向かって声をかけた。
鎧人形と応戦しながら、一瞬の不意をついて、鎧人形から離れ、その扉から、2人部屋の中に逃げ込んだ。
『ったく、どうなってんだ』
『いつも、こんな事なかったのに』
『ああ、そうだな、急に登場人物増えやがって』
『えっ』
『いつもは、お前と俺だけだったからな』
『これ、私の夢』
『俺の夢だ』
『…』
『…』
『…まさか、2人で同じ夢見てたのかな』
『…かもな』
『そっか…よかった』
『何がだ…』
『いや、別に』
『?』

(同じ夢見てたんだ…夢の中だけの人じゃなかったんだ)

『…』
『…』
『…本当はずっと気になってた』
『えっ』
『お前の事』
『!』
『いつも、声をかけてたんだが、聞こえねーみてだし』
『…私も、声かけてみたんだけど、届かないみたいだから、諦めてたの』
『そうか』
『うん』
『でも、こうして話出来たから、よかった』
『そうだな』

突然、扉の向こう側から、物凄い音がして、剣が扉を貫いて来た。

『きゃ!』
『あいつらまだ諦めてなかったのかよ』
『そんな…』
『このままだと、時間の問題だな』
『どこか逃げ道見付けないと…』

そう言いながら、部屋の真ん中の方に歩き出した時、足元の床が黒く光り出し、その中に私は落ちていった。

『きゃ〜』
『おい!
ちっ、世話のかかるやつだな』

そう言うと、彼も後を追って、その中に入って行った…。

(このまま、もう会えなくなるのかな…そんなの嫌)
おもいっきりの力を込めて叫んだ。

『そんなの嫌〜!』

…そう大声で叫びながら、飛び起きた…。

『…あれ?
そうか、夢…だったんだっけ』
『ん?』

辺りを見回しながら、自分にも、ふと目をやる。

『えっ、彼のシャツ着てる…?!』
『なんで…じゃ、夢じゃなかったの?!』

(夢じゃない夢って…?)
……次の日から、あの夢は一度も見れなかった。

(どうして…見れなくなったのかな?…彼にもう会えないのかな)

そんな矢先、
親の都合で、やっと慣れた学校を転校する事になった…。

『夢も現実も私の心はブルーだよ』

そういいながら、転校一日目、学校に向かった。

学校の門には、ある男の子を追い掛け、キャーキャー騒ぐ女の子の群れ…。

『いいなぁ〜彼女達は、私なんか…ん?』
『あ〜!』

その女の子に囲まれている男の子の顔を見て、思わず、大声で叫んでいた。
その声に気付いたか、彼がこちらを振り返る。

『…ん?…お前』
『やっぱり』

彼は、その場にいた女の子を振り払いながら、近付いてきた。

『無事だったんだな』
『そっちも』
『あっ、名前聞いてなかった。』
『跡部景吾だ。お前は…』『…私は…ん?』

何やら、周りからは痛い視線と、
「ちょっと何よあの女…」「私達の跡部様に近づくなんて許せない〜」
という罵声が聞こえてくる。

(なんか、めちゃめちゃ睨まれてるんだけど…)

『ん、どうした?』
『私の事守ってくれるんだっけ?』
『なんだ、守って欲しいのか?』
『出来れば、この状況から…』
『なんだ、そんな事か』
『えっ』

そういうと、彼は私にキスをした。

『!』

(な、何〜?!)

周りからは、悲鳴のような声が、辺りに響き渡る。

(これも夢…じゃない…みたい)

『おい、逃げるぞ』
『えっ』

彼は、私の手を取り、走り出した。

『また、走るの?』
『仕方ねーだろ』
『これも夢?』
『まさか…』
『あっ、シャツ返さなくちゃ』
『別に、急ぐ必要はねーよ』
『えっ』
『これから、ずっとそばにいるんだからな』
『…うん。そうだね』


…誰かの悪戯か、
夢が繋ぐ偶然の出会い?

…夢であって夢じゃない。不思議な出来事………。

想い…が見せる貴女だけの夢?はたまた現実?

貴女も出会ってみませんか?

自分だけの騎士…いや、運命の王子様に……。



物語の入口はすぐそこに……………………………。



おわり

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