短編集

□約束
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空は藍色に染まり、星や月が瞬き始め、もう人は寝静まっている頃であろう。だが、とある部屋の戸の隙間からは光が微かに漏れていた。
耳を澄ますと、何やら部屋からぶつぶつと呟く声が聞こえる。こんな夜中まで、何をしているのだろう。
昌浩は気になり、そっとその隙間から部屋の主を訪ねた。

「ねぇ、何をしているの?」
「…!?」

 ガサッゴソッ

慌てて何かを隠したようだ。
書物を落としたような音がする。

「ま、昌浩…。ど、どうしたの、こんな時間に」

余程驚いたのだろう。
言葉にも、顔にもかなり動揺しているのが分かる。
いったい何をしていたのだろうか。

「いや、まだ部屋の明かりが見えたから、どうしたのかと思って。こんな時間まで、何をしていたの?」
「えっ…な、なんでもない…わ…よ…?」

それにしては不自然に動揺をしている。
それに、目も泳いでいた。
…怪しい。
昌浩はいぶかしげに眉をひそめた。

「本当?」
「え、えぇ…」

彼女の顔は、どこかしら引き付っている。
…絶対何か隠してるな。

「じゃあさ…」

それは、ひどくゆっくりとした動作で。

「その書物、何?」

彼女の机の端に置いてあった物を指で示した。

「!!」

彼女は、やってしまったという顔をした。
先ほど慌てていたので、ついしまい忘れてしまったのだろうか。
机の端には書物が一冊、無造作に置かれている。

「こ、これは…」
「陰陽術の書物、だよね」

昌浩がさっと答えた。
昌浩も半人前だが陰陽師だ。
きっと見覚えのある書物なのだろう。
確かにそれは陰陽術の書物だった。

「これ、どうしたの?」
「そ、それは…」

彼女は少しうつ向く。
何だかとても言いづらそうに、その小さな眉をひそめた。

「それは?」

昌浩はなおも聞く。
暫くして、彼女は顔を上げ、意を決したかのように話し始めた。
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