◇A書庫

□確かなこと
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***


朝目が覚めた。
時刻は七時になっていなかった。
今日は部活が無い。
さらに休日が重なったから昨日は勿論栄純と身体を重ねたわけで。
久しぶりだったから俺も張り切ってずいぶんと無茶をさせてしまった。


起きようとして……やめた。

すぅすぅ。
寝息が聞こえた。
俺の腕の中にいるこの愛おしい存在を思わず抱きしめた。
好きじゃ到底足りない、愛でも足りない情熱が沸き上がる。
決して綺麗な感情でもない、けれど純粋すぎるこの気持ちを。



………いつからだ?

いつから目で追い始めた?
いつからこの感情をこいつに抱いた?
いつからこいつじゃないとダメなんだって気がついた?


いつからかなんてわからない、きっとそんないつからがわかるもんじゃない。
気がついたら墜ちていた。
いままで付き合った女の子も沢山いたけど、一度も抱いたことがないこの感情を、この年下のましてや同じ性別の男に抱いた。
誰にもあげなかった白旗を上げていたのは栄純だから。




「…み、ゆき?」
「ごめん、起こした?」
「ん、だいじょうぶ」
「寝足りない?」
「……ぅ、ん」
「今日はオフだからまだ寝ててもいいから」

撫でながら髪をすくと、気持ちよさそうに口元を緩めた。
俺は栄純の髪を触るのが好きだ。
というよりは栄純に触れるのが好き。


「くすぐったい」
「ああ、悪い」
「けど、気持ちいい」
「そう?」
「アンタの手に撫でられる感触が好き」


カチリ、目と目が合う。
とろんとまだ眠たそうな瞳が、俺を真っ直ぐに射抜く。


「なあ…、」
「何?」
「どうしてアンタなんだろうな………?」

「俺はどうして御幸が好きなんだろう?」



「さぁ?それは俺に聞かれても困る。俺も正直その答は知りたいんだけど?」
「……わかんない。わかんないけど、好きなのはどうして?」

俺が喉の奥でククッと笑ったら、馬鹿にしてんのかと栄純がふくれた。
馬鹿にしてるわけじゃない。
だって俺も。


「どうしてかなんて俺もわからないよ」



「アンタはどうして俺が好きなんだ?」
「さっき俺もそのこと考えててたよ」
「どうしてかわかった?」
「どうしてなのかが分からなかったことが分かった」
「何だよそれ」


今度は栄純がクスクス笑った。
栄純の髪に、額にキスを落とした。


「でも、どうしてかわからないけど俺が栄純を好きなことは分かった。
どうしてを考えて分かったのはどうしてを考えようと思ったことだった。
好きな理由より大事なのは俺が栄純を好きだってことだから、答を出すと月並みだけど全部好きだってことになる。

栄純の存在すべてが。

多分良いとこも悪いとこも一つでも欠けずに」

「全部?」
「手垢のついた月並みな表現だけど、これ以外の表現を俺は知らない」
「ふぅん」
「わからないから、身体を重ねることで分かり合おうとするんだろ?身体すべてを使って、全身で愛して相手に自分が好きだってことを伝えるんだろ?栄純にはちゃんと伝わってる?俺の愛?」
「……伝わってる」

小さな声でちゃんと応えてくれた栄純に口元が緩む。
俺の胸に顔をうめて俺のシャツを握った仕種にやられそうになった。


「伝えてる気持ちより俺のお前へ抱く愛は大きくて伝えても伝えきれないからさ」








「栄純に刻み込む俺の気持ち全部を感じていてほしい」













「だから俺に愛されて」










「……いちいち言うことが気障なんだよ」

真っ赤になって悪態をつく栄純は可愛い。


「気障だろうがなんだろうが、俺の気持ちをそのまま伝えただけだから」

こんな栄純を見れるなら気障な台詞の一つや二つなんて言ってやる。
俺だって、心臓バクバクしながら言ってんだからさ、イイコトもないとね。
俺の台詞を気障だと栄純は言うけれど、言葉にして届けないとお前は分かってくれないだろ?
ちゃんとこういうことは言わないとダメなことだから。


「……ストレートすぎんだよ」
「お前を見習っただけ」
「は?」
「大事なところはストレート、お前らしいだろ?」
「変な御幸。けど、そんなとこも含めて御幸が好きな俺も変なんだろうな」
「……へ?」
「大事なとこはストレート、だろ?俺は御幸のこと好きだよ」


マウンドで開き直るときと似ている、ニッとあの強気な顔で笑う栄純が、



「はは、降参」


やっぱり好きだと、肩をすくめながら再確認した。








「俺が御幸を好きな責任、とれよ?」
「喜んで」


勿論、俺が栄純を好きな責任もとってもらうつもりだけど。


「栄純、」
「ん?」

「      。」












この想いに限界がないというならば―――。




――無限の愛があるのだということを証明して。












――無限の愛がなくても、


――俺が栄純を愛した、それがただ一つの真実であり、事実なのだから。






*end*

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