◇A書庫

□可愛くない Loving you
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今は授業中で。
五限目の古典で。
お経みたいな文章を古典教師が読み上げているところで。
いつもならばお昼御飯食べた後五限の古典なんて睡眠学習をする時間。
俺が起きてることに古典教師がびっくりしていたが、起きてはいても授業の話を全くきいていないのだから寝ているのと同じだ。

グラウンドに視線を向けると雲一つない快晴で、体育でサッカーをしてる生徒が見える。
ジャージの色からして二年生。
しかも、御幸のクラスだ。
御幸はなんでかすぐ見つけられる。
いつの間にか目で追ってんだよな。

あ。
ゴールネットが揺れる。
DFをかわしてからの華麗なゴール。
野球だけじゃなくてサッカーも上手いってなんだよそれ。
御幸に男として負けてる気がした。
女の子の高い声がすべて御幸に向けられる。
本人は涼しい顔をしてそれに答えてる。
それでさらに黄色声が大きくなる。
ああ、なんで御幸はあんなにモテるんだろう。
今日も昨日も呼び出されて告白されて。
それもとびっきり可愛い女の子ばっかり。



俺が知らないと思ってんのか知らないけどアンタは何も俺に言わないよな。


虚しくなって、グラウンドを見るのをやめた。
黒板を見ると端から端まで文字で埋め尽くされている。
もう教科書をみてもどこやってんのか分からなくなったから、俯せになって寝た。










今日も今日とて易しくはない練習はグラウンドに礼をして終わった。
今日はもう少しランニングをしようかと考えて、タイヤを取りに行った。
タイヤを取りに行く途中でクリス先輩が帰るみたいだったから、挨拶すると自主練も程々になとポンッと頭に手をのせられた。
クリス先輩にこうやってポンッてしてもらうの好きかも。
元気よく返事をするとクリス先輩が苦笑した。





自主練も終わって風呂に入って部屋に戻ると倉持先輩が一人でゲームをしていた。
今日は音ゲーをハイレベルでやっていた。
倉持先輩はゲーマーなだけあって音ゲーも得意。
落ちてくるものに合わせてボタンを次々と押していくあのゲームは俺は苦手。
あれなら対戦型ゲームの方がまだできる。


「さーわむら」
「はい?音ゲーは俺やりませんからね」
「ちげーよ、お前音ゲーは壊滅的で相手になんねーだろうが。いいからこっちこいよ」


画面にはでかでかとYOU WINの文字。
倉持先輩は電源ボタンを押し、画面を消して、他のゲームのパッケージを探していた。


「もーなんなんすか?」

次のゲームはRPGらしい。
リズムのいいBGMとともに画面に明るくなり、倉持先輩は迷わずコンティニューを選んでボタンを、

「今日は珍しく五限目起きてたんだな」

押さずにコントローラーを床に置いた。


「なんで知ってるんすか?」
「試合が終わって休んでた木陰からお前の席が窓際だから見えたんだよ」
「そっすか」
「御幸はBチームだったからちょうど試合中だったよな」
「……そうなんですか?」
「とぼけんなよ、御幸のシュートが決まったとこしっかり見てただろーが」
「そこまで見てたんなら俺に聞かなくてもいいじゃないっすか?」
「バーカ、そのあと浮かない顔して寝そべったのはどこの誰だよ。……なんかあったのか」


気づいてほしい奴は気づかなくて。
どうして倉持先輩は気づいてくれるんだろう。
こういうとき倉持先輩はほんとに目ざとく気づいてくれる。
ぶっきらぼうに、だけど必要なときに。
その不器用な優しさに今は甘えたかった。


「別に……、ただモヤモヤするです」
「…嫉妬か」
「認めたくない、けど……」
「…ったく、分かり切ってたことだろ」
「あんなに女子にモテるなんてズルイっす、…御幸のくせに」
「一応あれでも所謂イケメンなんだよ。女はイケメンには弱ぇーの」



「御幸は、なんで俺と付き合ってんすか?」
「俺に聞くな、本人に聞け」
「女子と付き合えばいいのに」
「確かにより取り見取りだよな、……って自分で言っといて何泣きそうになってんだよ」
「泣いてないっす」
「…あーもう、面倒臭ぇっ!!」
「うわッ!?そんな乱暴に頭をガシガシすんのやめろ〜!!」
「先輩にタメ口ったぁいい度胸だな沢村!!」
「スイマセン…って痛ッ痛い、ギブギブ!!マジで死ぬッ」

倉持先輩に技かけられて、抜け出せなくてジタバタしたけど練習の疲れもありすぐにギブアップした。
息切れを起こした俺に情けねーと笑う倉持先輩も若干息が乱れていた。
涙なんて吹っ飛んでいた。


「御幸をやめて俺にしとくか?」


倉持先輩から出た言葉に目を見開いた。


「……そっすね。御幸より倉持先輩にしといた方が楽かもしれないっすね」

そんなこと一ミリも思ってないけど、倉持先輩の言葉も本気じゃないことが分かってたからわざと嘘をついた。
このとき、嘘をついた自分を殴れるなら殴りたい。







「だとさ、御幸?」
「へ?」


扉の前で仁王立ちした、今なら魔王と呼ばれるお兄さんにも勝てそうなオーラを出した、

「倉持、何俺の栄純口説いてんの?」

それはそれは超絶笑顔の御幸がいた。

「ヒャハッ、フラれたなぁ御幸?」
「み、御幸…」
「栄純も栄純で何浮気しようとしてんの?」
「え、っと…あ、……え?」
「それ、俺の部屋の鍵。今誰もいないから俺の部屋へ行って待っててくれる?俺は倉持と話があるからさ」
「……拒否権は、「あると思うんだったら行かなくてもいいけどそれなりの覚悟はしとけよ」…行きます」

渡された鍵を持って、一目散に御幸の部屋へ向かった。









バタンッと勢いよく閉められた扉を見ながら、はぁとため息をついた。

「余裕ねーな、お前」
「うるせぇ、勝手に口説きやがって」
「おーおー、口説かれる隙を作らせたお前が悪ぃんだろ」
「で、沢村はお前と何話してたんだよ」
「沢村がお前に女の陰がちらついてんのが嫌なんだとよ」
「……あっさりしゃべったな」
「俺は沢村の味方だからな」
「はぁ〜、俺と違ってあいつは味方がほんと多いね」
「性格悪いお前と沢村はちげーよ」
「お前も俺と変わんねーだろ。それより、お前も沢村狙ってるんじないのか?」
「俺はいいんだよ、沢村と付き合えないなら少しはおいしい蜜も吸えるポジションにいたっていいだろ?」
「……まあ、本当はそんな蜜も吸わせたくないけど」
「独占欲の強いやつは嫌われんぞ?沢村泣かせたりしたら俺が横から掻っ攫ってやるよ」
「沢村は俺だけのでいいんだよ。横から掻っ攫わせるような俺だと思うなよ」
「マジで性格悪ぃ」
「お互い様だろ?」
「ヒャハハッ、そりゃそうだな。で、早く行ってやんねーとオヒメサマが退屈してんじゃねーの?」
「じゃ、今夜は姫と夜の退屈しのぎをしましょうか」
「お前が王子じゃ童話にはなんねぇな」
「童話にするつもりもねぇよ、王子だって狼なんだし」
「チッ、言ってろ」


もう言うことはないとばかりに倉持はゲームのスタートボタンを押して、ゲームを始めた。
俺も自分の部屋へ戻るために足を早めた。









部屋の扉を開けるとベッドの上で三角座りしていた栄純がいた。
ちょっと船をこいでいて俺が扉を閉めた音で起きた。


「あ、っと、御幸…」
「お待たせ、栄純?」

にっこり擬音がつくような笑顔で栄純を見るとヒィッと失礼な声を上げた。

「あのね、流石の俺でもそれは傷付くよ?」
「ぇ、あ…、ごめん」
「それはいいけど、俺は栄純の倉持への乗り換え宣言の方がもっと傷付いた」
「…ごめん」
「栄純にそんな気を起こさせるようなことをした俺も悪いけど……」


逃がさないように栄純の手首をガシッと掴んだ。


「ちょっ、何すんだよ!?」
「え〜?栄純に俺がどれだけ愛してるか分かってもらおうと思って、……身体で」

栄純が、

「〜〜ッ!!……分かった、から、手放せよ」


泣きそうな目で俺を見た。
あちゃー、この目には俺弱いんだけどなあ。
この目を見ると俺が悪者みたいに思えて、これ以上はイヂめることも出来なくなる。
……ったく、俺だって泣きたいんだよ栄純。


「栄純は野球部とかクラスの男と仲良すぎ」
「へ?」


さっきまで男の顔してたくせに、子供みたいに拗ねた顔になった御幸に戸惑う。


「今日も昨日も一昨日も抱き着かれるわスキンシップ多いわで、俺が視線で人が殺せればいいなと思うくらい触れられすぎ」
「物騒なこというなよ!」
「俺だってその度にムカムカイライラしてるんだぜ?栄純が女の子に感じているのよりはるかに大きくて重いものを抱いてる。言ったら多分、絶対栄純は引くくらいに」


いつものカッコつけで強気な御幸はここにいなかった。
こんな御幸見たことなかった。
俺の知らない御幸。


「なぁ、俺の方がお前よりずっと……、どうしたの?栄純?」


気がつけばクスクス笑っていた。
だって何だか御幸が可愛いかった。
抱きしめたら御幸がキョトンとした。
それを見て思った。


「ゴメン、俺やっぱりアンタが好きだなって」
「…は?……え、あの?栄純さん?」
「…って何だよその顔。すっげぇ情けない顔してる」
「あの〜、俺ちょっとシリアスな話をですね…、」
「うん。御幸が嫉妬してた話だろ?俺も御幸に笑顔を向けられる女の子に嫉妬した。御幸が好きだから、嫉妬した」
「…………」
「だけど、女の子は御幸の恋人じゃないからもういいんだ。御幸は俺の恋人だから」
「……はぁ、ほんと栄純には敵わないな」
「分かってたんだけど、実際見るとなんかモヤモヤして嫌だったんだよな」
「そっか、今度からちゃんとそれ倉持じゃなくて俺に言ってよ」
「ん、分かった」
「で、栄純は浮気なんかしないよね?」
「アンタで手一杯で他のとこにいく余裕なんてないよ」
「他のとこ行ったら俺どうなるか知らないから。嫉妬するレベルじゃなくなっちゃうから気をつけてね」
「分かってる、だから御幸も行くなよ」
「もちろん、俺は栄純から離れないけど……じゃあ、そろそろシてもいい?もう我慢しなくていいよな?」


あの子供な御幸は一瞬で消えて男の顔になった御幸にぞくりと背筋が震えた。
ああ、御幸の男らしいこの顔も俺は好きだよ。
わざわざ耳元で低くかすれた声で言う確信犯には、


「……ッ、ぁ、…勝手にしろ」



Yesは絶対に言ってやらない。
その答に満足したのか溶けるような笑みを浮かべた御幸はズルイ男だと思う。




「ではお言葉に甘えまして」












可愛くないのもお互い様。
でも、そんな相手が好きなのもお互い様。


結局、どう転んでも好きだなんて俺も御幸もつける薬はないらしい。








*end*

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