長編夢
□好きな人は先輩
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1話[忘れられない出会い]
その後ろ姿を見た瞬間、守ってあげなければと思った。
だから手を貸した。
その容姿を視界に入れた瞬間、ハッと息を呑んだ。
それは惹かれたから。
そしてお礼の言葉を発する声を聞いた時、めまいがした。
恋に落ちたから。
「ありがとう、日吉君。」
たまたま昼休みに来ていた図書室。
本を探しながら歩いていると、丁度彼女が台もなしに高い所へ本を戻そうと手を伸ばしていた。
まだ沢山本を抱えている様子から、図書委員なんだろう。
「別に、大したことじゃないですから…。」
……。
というか、今…
「俺の名前…。」
この人とは今が初対面なはず。
「あ、知ってるよ。テニス部でしょ?あたし、跡部と幼馴染みなの。」
くらり、くらり。
擬音を付けるなら、そんな音で頭の中が回った。
一目惚れをした彼女は先輩で、跡部先輩の幼馴染み。
よりによって“跡部先輩”の。
「どうしたの?日吉君。」
思わず固まってしまった俺に、先輩は不思議そうに声をかけてくれる。
「い、いえ。よかったら残りも手伝いましょうか?」
「本当!?それは助かるよー!」
嬉しそうに申し出を受け入れてくれた。
せっかくなので俺も、もう少し一緒にいたいと思い、気を取り直した。
でも、そう上手くいくはずもなく…
「遅ぇ。まだこんなとこにいやがったのか。」
「景吾!」
なぜか跡部先輩が。
「アーン?何で日吉と一緒にいんだよ。」
「手伝ってくれてたの。すごく助かったよ。」
「ふーん…。」
跡部先輩がジロジロと見てくるので、仕方なく俺は軽く会釈をした。
「ほら、みんな飯食わずに待ってんだよ。終わったなら行くぞ。」
言いながら跡部先輩は強引に先輩の腕を引っ張っていく。
その姿に少しイラッとした。
「じゃーね、日吉君!」
慌てたように声をかけてくれる先輩。
だけど余計なことに跡部先輩が…
「ありがとよ日吉。ま、コイツにはもう会うことはないだろうけどな。」
なんてことを言うから更にイラッときた。
そして俺の頭の中には“下剋上”という大好きな言葉が浮かんだ。
「先輩!!好きです!」
次の瞬間には、もう叫んでいた。
「俺と付き合って下さい!」
出会ったばかりでこんな告白。
絶対に忘れることはないだろう。