ハートの国

□第四章 二部
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仲良しな二人





「ブルーは、帽子屋屋敷で働いているの?」

「はい、ディーとダムと一緒に門番なんです。」


抱きしめた後、腕を開放して身体を離す。


「可愛い制服ね。」

「そうですか?そう言われると嬉しいです。」


アリスさんは、私の服装を見つめた。


私は、使用人さんと同じような服装だ。

ただ、蝶ネクタイではなく白いリボンがついている。


それだけの違いだから、誰が見ても帽子屋屋敷の制服だと分かる。

可愛いと言われるとは思わなかったので、嬉しい。



「…門番って。」

「あ、接客の方です!刃物は扱えないですよっ」

「そうなの。…よかった。」



訂正を入れると、アリスさんはホッとした様子だ。

門番と聞くと、ディーとダムのような仕事を想像してしまうからだろう。

誤解されなかったことに安堵して、話を続ける。



「アリスさんは、遊びに来て下さったんですか?」

「ええ、みんな元気かなって。」


「僕らは元気だよ。」

「うん、元気。ボスも、ひよこウサギも元気だね。外出してるけど。」

「お姉さんも元気だった?」

「久し振りに会えたよね。お姉さん。」


「もっと、会いに来てもいいのに。」

「僕ら、歓迎するよ?」

ディーとダムが再びアリスさんに抱きつく。

もちろん、斧を持ったままだ。


「…ちょっと、あんた達!またっ」

斧がアリスさんの近くにくる。


彼女の表情から、再び斧に恐怖したのが分かる。

「ディー、ダムっ…学習してない。」

私は二人をたしなめる。


「斧っ、斧を離しなさいよ!離れてっ」

アリスさんも再び叫んでいる。


「離れてなんて酷いよ。」

「そうだよ、離れてなんて言わないでよ。」


「離れてなんて、お姉さんは僕らが嫌いなの?」

「嫌いじゃないよね。好きでしょう?」


「好きだよね?」

「ね?」


そう言いながら、 斧が彼女の間近に迫ってる。

脅している、と思う。


「ちょ、ちょっと!!し、死んじゃう!死んじゃうったら!」




(あれ?)

さっきより近い。

斧の位置がとても危険だ。

最初の時よりも、アリスさんに近づいている。



刃先が触れそうな距離。

二センチくらいでアリスさんに当たる。


「ちょっと、ディー。ダム。」

冗談にしては、やりすぎだ。

二人の事は信じているけど、見てて怖い。



「僕らの方が死んじゃいそうだよ。」

「そうだよ。僕ら傷つくよ!傷ついて死んじゃう。」



下手に触っても、刺激しても危険だ。

ギリギリの距離。


アリスさんが斧で切れたら、取り返しがつかない。

しかも、間近に迫っている。


(ええ?!)

焦って考える。

二人が離れそうなことってなんだろう。


さっきまで押していたけど、全然聞こえていない。

押してはダメだ。

引いてみる。



(…い、痛いかもだけど。)

こんなことで二人が乗ってくれたら嬉しいけど。

成功するとは思えない。

ただ、他に良い手は思いつかない。


(引こう…)




「あの、…二人とも。アリスさんが大好きなんだね。」



知らなかった、少しショックだなぁ、みたいな声。


もちろん、私はそんなに声が作れるほど器用ではない。

だから、本音も少し混ぜている。



「「…。」」

二人の肩がピクリと動いた。

アリスさんを抱きしめたまま、双子達の動きが止まった。

(お?)

成功するかもしれない。




「え?な、なに?」

動きの止まった双子に、アリスさんは困ってるみたいだ。

その模様を見つつ、悪いなぁと思う。



ウソを言ってるつもりはないけど、意識して言葉を紡いでいる。



(…なんか、私。悪い人みたい。)

二人の反応を利用しているのだから、悪いと思う。



「ご、ごめんね。だけど、…二人がアリスさんに夢中なのは、ちょっと寂しいな。」

声色に注意して、控えめに微笑みながら、言葉を紡ぐ。

笑っているつもりだけど、半分は本音だから性質が悪い。



微笑みも、少し寂しそうに映るようだ。

アリスさんは心配そうな顔をして、私を見ていた。


(…大丈夫ですよ?)

彼女にだけ分かるように、ニコっとほほ笑む。

視線で会話する。

アリスさんは、目を瞬かせていた。



「「…。」」

無言でディーとダムが、アリスさんを解放してくれた。

その様子を見て、ホッとする。



(…よかった。)

と思ったのも、つかの間。

次の瞬間、私の視界は遮られた。

「え?」

目の前がぼやけて、唇に触れた感触に驚く。



何が起きたか理解した時には、遅かった。

目の前に赤い瞳が映り込む。



「…お姉さん、寂しかったんだ。」

見上げるように見つめてきたダム。

嬉しさと意地悪さが見え隠れした顔。

色っぽく見つめられ、見上げられる。



「僕らが、お姉さんに甘えてたからだよね。ごめんね。」

ディーは、ちゅっと頬と耳にキスをする。

無邪気そうな感じだ。



「ちょ、ちょっと…ふ、二人とも?」

驚いた。

アリスさんから二人を離れさせようと思っただけなのに。

こんな展開は望んでいない。


しかも、アリスさんの目の前だ。

二人は私に抱きついたまま、頬にキスしてくる。


「だ、ダメだよっ」

恥ずかしくて、顔が熱い。

人前でこんなことをしないで欲しい。



(なにも、アリスさんの前でしなくてもいいのに…)

この状況をどうしようか。

頭をかきむしりたくなった。



(な、なんで?)

オロオロと困って、アリスさんを見る。

なぜか、彼女は微笑んでいた。



「ア、アリスさん?」

「ブルーって可愛いわ。」

「えっ?」

「顔が真っ赤よね。」

「っ…それは言わないで下さい。」



恥ずかしい、と意思表示しなくても十分に伝わっているだろう。

指摘されるほど赤いのだから。



「…確かに、お姉さんは可愛いよね。」

「お姉さんは好きだけど、お姉さんにもあげないよ?」



双子達は意地悪っぽい笑みを浮かべている。



「…あなた達って、付き合ってるの?」

「うん。そうだよ、僕らは恋人同士なんだ。」

アリスさんの質問に、ディーが答えた。

にっこり笑っている。



「え?えっと、…三人で?」

「そうだよ。兄弟と僕とお姉さん、三人でね。」

今度はダムが答えた。

にんまりと笑っている。



「…(大変そうね)」

「…(そ、そうですね)」

私はアリスさんと、お互いに目で会話する。

こういう会話ができるから、彼女とは楽だ。

意思疎通がしやすい。





「今度、アリスさんの所に遊びに行きますね。」

「ええ、もちろんいいわ。」

お互い微笑みつつ会話する。



「…(いろいろ相談すると思いますけど)」

「…(ええ、大変そうよね)」

ここにいる双子達には分からないように、言葉以外で会話をする。



アリスさんも、何かと日常が大変そうだ。

ペーターさんと付き合っているのかは知らないけど、ペーターさんは相変わらずそうだ。

邪魔したくないけど、

今度、ゆっくり相談したい。



(…アリスさんはお姉さんなんだよね。)

そして、ビバルディは大人の女性だ。

メイドさん達もお姉さんだけど、価値観が少し違う。



余所者だからだろうか。

一緒にいると、アリスさんは落ち着く。



「じゃあ、また来るわ。」

「はい。また。」


「「じゃあね、お姉さん。」」


今度、遊びに行こう。

二人に抱きしめられたまま、私は彼女の後姿を見送った。





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