クローバーの国

□第二章 一部 行動開始
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「お…おはよう。ピアス。」

「…うう、ねむ。…ん、おはよう。」



可愛らしい仕草。

むにゃむにゃしている表情は少し幼い。



ネズミさんだ。

そう思うと許せるけれど、問題はそこじゃなくて…


「ピアス…。離れて。」



この状況が問題だ。

抱きついたまま寝ぼけるピアスにため息がでる。



「ん…ちゅう。ちゅうする。」

「しない。…起きたんでしょう?離れてよ。」



目が覚めて挨拶の次に『ちゅう』…

ピアスらしい発言だ。

…いい加減、腕をどけてくれないと困る。


「ちゅー…」

「寝ぼけないのっ」

「むがっ!?」

「いいからっ。…諦めなさい。」


手で押し返すがピアスも負けじと迫る。

ここままだと勢いに負けかねない。


「ええっ!?ちゅうしたい。ちゅう。だって、君は可愛いもん。」

「可愛いは関係ない。しないのっ」

「ちゅう…。なんでぇ?」




ドンと押してベッドから立つ。

…ちゅう。

ネズミの鳴き声だ。


「ちゅうちゅう鳴いても。ダメなものはダメ。」

「違うよ。鳴き声じゃないよ。本当に『ちゅう』したいのっ」

「それは分かってるけど…っ!」



逃げたのに捕まる。


「だからっ可愛いものにはちゅうするの。」

「…あの。」


なにが『だから』なのか…まったく脈絡がない。

説得でもなくピアスの言い分だ。

さすがにイライラしてくる。

何で、こんなに伝わらないんだろう。



「君は、俺のもの。だから、ちゅうするのっ」

「な、名前書く意味と違うからっ」

「同じだよ。俺のものにはちゅうするの。」

「ちょっと!?」

動きが早くて一気に距離をつめられる。



ちゅう…と頬にキスされた。

軽く触れたそこから、熱が。



「…このっ」

「うわっ!?」

「ピアス!!!!」


息を荒立て、顔を真っ赤にして。

突き飛ばして怒りたい。


「…〜〜〜っ…」

「…あわわわ。」

「…。」

「ぴ?」


恥ずかしくて、熱い。

…震えるほど怒っているのに、言葉にならない。


「お、怒った?ブルー、怒ってる?」

「…お。怒っている。」

「ぴ!?」

「…怒っている。だから、もう…」


怒るのも慣れなくて疲れる。


「もう、ちゅうしないで。」

「…え?ええ?」

「…。」

「な、なんで。なんで?」



ピアスがショックを受けている。

恐る恐る私を見ている。

こっちは顔をそらしても、雰囲気は伝わる。


「も、もしかして…ちゅう。いやだった?」

「…。いや。」

「ええー?!」

「…なんで驚くの。」

「だって…い、いやなの?ちゅうは、ちゅう。本当にいやなの?」

「…。」


…嫌ではないが、されても困る。

するべきじゃないと言っても、彼は分かってくれないだろう。


「ねえ、いや?嫌だったの?ブルー。」

「…。」


ピアスはすがりつく。

押しも引きもしない。


…だんだん可哀想になってきた。


「…するべきじゃないと思うの。」

「な、な、なんで?」

「いきなりはしないでしょ。…せめて、もっと仲良くなってからするべき…かと。」

「そ、そうなの?!本当に?仲良くなったらしていいの?」

「はぁ?!」


間近に迫られる。

本当にすばやい。


「もっともっと、仲良くなったらちゅうしていい?いいの?」

「…。」

「さっきの、そういうことだよね?仲良くなったらちゅうしていいんだよね。」

「…えっと。そういうことじゃ…」

「可愛いからちゅうしたかったけど、俺、がまんするよ。がまん、得意じゃないけど。」

「…は、話を聞こうよ。」

「うん、仲良くなってからちゅうする。俺、がまんするからね?」

「は、話…」

「約束。約束しよう?」



彼に諦めという言葉はない。

やり取りに疲れて、折れたのは私。

ぎこちなく頷くしかない。


「…う、うん。」

「わーい。どれくらい仲良くなったらちゅうしていい?」

「…うう。」


自分の首がじわりとしまっていく。

「か、家族くらい大切な友達になったら…。」

「そっか。もっと仲良くなろうね?ちゅうしよう?」

「は?」

「今はほっぺで我慢するから。」

「はぁぁっ?!」


頬に唇が押し付けられる。

「えへへ。もっと仲良くなったらちゅうしようね?」

「…ピアス。」


分かってない。

…ちょっと待て。

納得できない。

キスしないでと言ったばかりだ。



「ちゅう、ちゅう。ちゅうしよ?」

「…。」


ムードも何もない。

結局、押し負けてしまったのは私だ。




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