クローバーの国

□第二章 一部 行動開始
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「…ナイトメア?」

目の前の彼に驚きを隠せない。


「うん?」

「…なんで目の前にいるの?」

「ああ。私が君を連れてきたからだ。」

「…ど、どうやって?」


高級感のある緑の壁紙、高い天井。

目の前にはナイトメア。


(クローバーの塔の中…。)

見回さなくても分かる。


「ふふ。どうだ? 私の力はすごいだろう?」


にっこり自慢げなナイトメアの顔。

私は彼の手の中だ。


「うん。すごい…けど。」

軽くパニックだ。



「ん?どうした?もしかして怖かったか?」

「ううん。怖くなかった…けど。」


瞬間移動。

動いた感覚がないから混乱している。


「と、遠くにある物も移動できるの?」

「ああ、私は夢魔だからな。できるぞ?」

(…夢魔だからってどういう?)


夢なら分かるが今は起きている。

現実でも影響力はあるということ?


「ふふ。すごいだろう?」

「うん、すごい…。」


よく分からないけど、すごいことだ。

得意げな彼を見つめる。




「あっ! ありがとう。ここまで連れてきてくれて。」

「いや。ああ、まあ…その。」

「?」


ナイトメアは恥ずかしそうに頬を染めた。


「なに?」

「いや、…君は純粋だなと思ってね。」

「えぇ?」

「純粋で素直だなぁ…と。」

「?? よくわからないけど、…単純の間違い?」


純粋よりも子供すぎるなら納得する。

自覚しているから。


「いや、なんでもそうだけど、心が素直だ。…こちらの毒気が抜かれる程度に。」

「うーん。ナイトメアに毒気なんてあるかな?…なさそうだけど。」

「そうか?」


純粋なこと。

変なことを言った自覚がない。

思考は巡って、不安だらけだ。


「…変なこと言ってた?」

「いや、言ってないさ。ただ…」

「ただ?」

「気持ちがね。感情がはっきりと分かる。」


人の心が読める夢魔。

ナイトメアは私の知らない私が見える。


「…今は頭の中がグルグルしてて、はっきりしないよ?」

「そうだね。君の中の感情は…哀しい、愛しい、寂しい…渦巻いている。」

「うん。」


その通り。

甘ったれで子供。

大人には程遠い。








「ねえ、ナイトメア。」

「ん、なんだ。」



手を伸ばして、近づいていい?と首をかしげる。


「…おいで。」

「うん。」


手を近づけて、すべすべと白い頬に触れる。

体温が安堵させる。


「…。」

ナイトメアはここにいる。


「ん?私はここにいるぞ?」

「うん。そうだね。」

「…心細いのか?」

「うん。…そうだね。」


ナイトメアの銀の瞳が合った。

私は誤魔化すように微笑む。


「だって、ナイトメアは夢魔でしょ?」

夢の中で見たのと同じ色。


「…。」

「違うの?」

「ああ。そうだよ。夢魔は私一人しかいない。」

「こうして触れられるけど…何だか信じられなくて。」


彼は夢魔。

夢ではなく現実の世界にいるけれど。


「すぐ消えちゃいそうだもの…」



彼は優しくて、私は安心する。

夢の中で会った数も多い。



「夢の中も、目の前にいるのも私だよ?」

「うん。分かるけれど…」


それでも不安になる。

泣きそうになる。


「ナイトメアは消えない…?」


陶器のように白い肌。銀の瞳。

すぐに消えていなくなってしまいそう。




「…あっ」

ギュッと掴まれた。


「私は消えないよ。夢でも現実でも好きに入れる。」

「…。」

「私を呼べ。君が呼べば…聞こえるから。」

「…うん。」



確かだと思えるものがないから不安なんだと思う。

不安定だから涙腺も緩んでいる。


「消えないよ。」


消えたりしない、そう応える彼の手。

やわらかい指は優しく私を撫でる。



「安心だ。」

「うん…。」






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