オレンジ編
□好きっていいなよ
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夕方の時間帯。
エリオットの部屋にて、まったりと時間を過ごしていた。
彼は仕事に出ていたから、もうすぐ帰ってくるはずだ。
その帰りを待つのが、少し日課になっていた。
「…。」
ブラッドから借りた本のページをめくる。
内容はミステリー小説だ。
借りた時は、ブラッドもこういうのが好きなんだなと意外に思ったけれど。
…
…
たしかに、読むとクセになりそうだ。
本ならではのトリックだけれど、騙されたと分かっても面白かった。
何度も読み直したくなる。
…
…
で、気付くのが遅れたらしい。
ドアが開いたことに気付いて、顔を上げたら。
「アリスー!!」
「…っ?!」
仕事から帰ってきたエリオットがそのまま抱きついてきた。
勢いがあったし、私はそのまま倒された。
背中にベッドのスプリングが弾んだ。
巨体が覆いかぶさり、つぶされると思ったがその辺りはエリオットが気遣ってくれたらしい。
「やっぱ、待っててくれたんだ。あんたって優しいよなー。」
「おかえりなさい、エリオット。」
ぐいぐい抱きしめられて、揺れる調子にベッドが揺れる。
きしむ音が大きい。
ベッドの上でなにやってんだと突っ込みをもらいそうだが、まあ何もしていない。
それが私達だ。
信頼関係…とでも言うのか、友人関係だ。
良好なので、おおむね安心ではある。
「はぁ。アンタがいると安心する。」
「そう。」
「…ふぁ、ねみぃ。」
あくびを一つして、エリオットはそのまま顔をうずめる。
私の肩口に、もぞもぞと頬を寄せてくる。
「…っ」
その距離に息が止まる。
けれど、エリオットは特に気にしていないみたいだ。
眠そうに目を閉じた。
「わりぃ。ちょっと…寝る…」
ゴソゴソと小さな声。
耳元に響いた低音。
寄せられた顔。
そして一瞬で寝付いた彼。
固まった私。
この数センチの距離のまま。
「…。」
ゆっくりと、音を立てないように息を再開した。
…
…
エリオットが完全に寝入ったのを見計らって、少しため息をついた。
心を許してくれる行動に、悪い気はしないけれど。
(…これは、危険だわ。)
彼は私を抱いて眠っている。
かわいいウサギ耳が揺れている。
フワフワ…
フワフワ…
時折、ぴくりと動くそれは、彼がウサギだからこそあるもの。
本人は完全に否定しているけれど。
でも、動物らしいそれを私は愛している。
そう、…こよなく愛している。
大好きだ。…引っ張ってもふもふしたい。
(……)
で、暴走しかけた自分の頭を振り払って、
改めて彼に目を戻した。
目の前には、エリオット。
がたいのいいお兄さん。
綺麗なオレンジの髪。
マフィアのナンバー2。
ゆれる茶色のウサギ耳は、あえて見ないようにする。
普通にこの世界の男性ってことだ。
…ウサギだけど。
(これって懐かれたってことかしら。)
まあ、普通に仲良くなって今も順調に仲が良いと思う。
そこは疑問には思わない。
でも…
(はたから見ると、やっぱり変よね。)
この関係は異常だと思う。
結構、誤解されている…みたいだ。
ボリスも、付き合っていると思われていた。
ウサギさんのにおいがするって言われた時に、そう言ったら驚かれたし。
(…まあ、たしかにちょっと…)
私達には何もない。
友情だ。
こうやって抱きつかれて眠れるくらい懐かれている。
「…。」
で、それを嬉しいと思っているから、重症だと思う。
こうやって、寝て、起きて、一緒にごはん食べて。
この日常が幸せだったりする。
できれば、ずっと続いてほしい。
エリオットはどうなんだろう。
時折むにゃむにゃと寝言を言う。
可愛くて、いやされる。
「……」
好き。
「……」
好きだと思う。
でも、
まだ言えない。
「…嫌いじゃない…の。」
ポツリと呟く。
ほんと素直じゃない。
もともと、ちょっとひねくれているから。
好きって言う必要はないけれど。
「…んー…」
エリオットが頬をすり寄せてきた。
でも、まだ寝ている。
ホッとして、目を閉じた。
(…嫌いじゃないわ)
いつか好きって言えるのか分からないけれど。
もう少し。
もうちょっとだけ…
END
素直になれないけれど